第2話 セリオの隠れ家で


 扉の軋む音とともに、木造の小さな小屋へ足を踏み入れると、そこには不思議な静けさが漂っていた。


「ここなら、しばらくは安心だよ」


 奥で火をくべながら、セリオが振り返る。その横顔は焚き火の揺らぎに照らされ、ほんの少し柔らかく見えた。


 森の中で迷い、兵士たちに巻き込まれ、異世界に飛ばされたばかりの悠真は、いまだ状況が飲み込めずにいた。


「……あの、ここって一体……」


 恐る恐る問いかけると、セリオはゆっくりと立ち上がり、棚から古びた地図のようなものを広げて見せた。


「君が今いるのは、“ルクレア”と呼ばれる大陸の西端。二つの王国が長年、睨み合っている土地さ」


 地図には中央を走る山脈を挟んで、赤と青で塗られた二つの国が描かれていた。


「……戦争、なんですか?」


「まだ全面的には、ね。でも近い将来、大きな衝突が起こるかもしれない」


 セリオの声は静かだったが、妙に説得力があった。


 その瞳はどこかすべてを見透かしているようで、悠真はつい見入ってしまう。年齢は自分たちとそう変わらないように見えるのに、醸し出す雰囲気はまるで違っていた。


「じゃあ……どうすれば、俺たち、元の世界に戻れるんですか」


「それを、これから一緒に探そう」


 穏やかに告げられたその一言に、悠真は一瞬、言葉を失う。


「……え?」


「君たちが元の世界の人間だってことは、すぐにわかったよ。何かの意思でここに呼ばれたんだろう。でも安心して。僕は……君たちを見捨てたりしない」


 その言い回しに、ふと違和感を覚える。まるで、以前にも同じようなことがあったかのような――。


「じゃあ、蓮も……!?」


 悠真ははっとして立ち上がる。つい先ほどまで隣にいたはずの蓮が、今はどこにもいない。


「その人が君の、大切な人……なんだね」


 セリオの声に、思わず頬が熱を持つ。思い出されるのは、蓮の無防備な寝顔、茶化すような笑み、ふとしたときに見せる寂しげな目――。


「……べ、別に、そんなんじゃ……」


 視線をそらすと、セリオはふっと微笑んだ。


「安心して。君の“蓮”はきっと無事だよ。君が信じているなら、きっとまた会える」


 まるでそれを知っているかのように、断言するその声に、不思議と心が少し軽くなった。


「……ありがとう」


「どういたしまして。そうだ、少し休んだらいい。眠れないなら、交代で見張ってるから」


「……いや、ちょっとだけ横になります」


 セリオに見守られながら、悠真は毛布に身を沈める。まだ不安は消えない。だけど、少しだけ――安心できる気がした。


 その背中に、セリオの低くて優しい声が重なる。


「君は、強いね。でも、無理はしなくていい。……頼ってくれても、いいんだよ?」


 その言葉はまるで、心の奥に触れてくるようだった。

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