第3話 感情

中国にいた時、私が言われて余り信用できなかった言葉がいくつかあるが、その中でも群を抜くのが「有感情」(拼音:You ganqing)である。あくまでも個人的にですが。


その理由を考えるに、きっとこの単語を聞くシチュエーションが余り良くなかったことが第一に挙げられる。仲裁したり、説得したりする時に良く聞いた。「我对公司有太深的感情(私はこの会社にとても思い入れがある)」。でもそれは枕言葉に過ぎない。この直後にクレームとか条件とかが述べられることが多い。


私はこの「有感情」と言う言葉が出てくるのが怖かった。でも一旦出てくるとひと段落すると言う事実もまた見逃せない。彼らにとってもこの単語は最終兵器なのだ。そりゃそうだ、心をひっくり返して見せているようなものだからだ。例えそれが嘘であっても、一回しか使えないと言う意味では同じである。


でもそれと信用のどこに繋がりがあるのか。それはやむを得ないとは言え、「感情」までをも人質にしてまで好条件を引き出そうとするその根性が許せなかったのかもしれない。そこは踏みとどまって欲しかったが故に、ブルータスお前もか、という感覚が先に立ったのだと思う。


しかしながら考え方を変えてみると、条件を呑ませるためなら感情くらい犠牲にしても構わない、という態度に却ってサバサバしたものを感じる。人間不信になる暇さえないほどのあっさり感である。そうなるほど人間を知らんし、逆の立場になったら、私の口からも無意識に同じフレーズが飛び出して来るかもしれないからだ。私もいつかはブルータスになるのだろうか。


皆さんもいざという時は感情をも人質にとって交渉ごとを進めるのも一興かと思います。ゆめゆめ準備を怠らないように。

此致,敬礼,再会。

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