第22話 岩城にて、再開
楽都からのバス。終点である「岩城(いわしろ)」に着いた。
「わあー賑わってるねー!」白助はわくわくしながらバスを降りる。
ここ岩城は工業都市として栄えた海沿いの町だ。
「しばらくしたら電車来るから」凪はまるで父親のように白助を宥める。
「えー、せっかくだし色々見たいよー」白助は駄々をこねる。
「いや、俺もそうしたいんだけどさ」凪は時刻表をみる。
「まじで本数がないのよ、だから次のやつ乗らないとかなり待つことになる」凪は残念そうに話す。
「そんなー」白助は落ち込む。
「まあ、今度はちゃんと観光で来れたらな」凪はそう話しながらも周辺を眺め始める。
すると、街の奥、人混みの中に和装を着た銀髪の男が見える。
「…?」凪は目を細める。
その男は、見た目は完全に人間だったが、間違いない。あの時の…!
「八咫…!?」
―――私の名は八咫。貴様を見届けるものだ。―――
かつてそう言い残し、凪を焼き、焜創を目覚めさせた男。
凪は男の元に一目散に走り出す。
「あ、おい!」清張は凪が突然走り出したものだから驚き、呼びかける。
そんな制止も聞かず、猛ダッシュで走る凪。
聞かなくては。
何故、俺なのか。
この力はなんなのか。
そしてお前は何者なのか。
聞きたいことは山ほどあった。だから走る。
しかし、何故か近くに寄れない。
気がついたら人混みは居なくなっていた。というより、2人だけの空間に入った。と言えるかもしれない。
道路の向こうに、八咫が立っていた。
「お前!何者なんだよ!!」凪は叫ぶ。
「言っただろう。お前を見届ける、と」八咫は返す。
「見届ける…ってどういうことだよ!あとこれ!」凪はそう言いながら右手の甲を見せながら掲げる。
「焜創!!お前がつけたんだろ!!これ!」凪は叫ぶ。そう、八咫がつけたのではと思っていた。あの炎に焼かれたからこの力が目覚めた。いや、目覚めさせられたのだと。
「私ではない。お前が持っていた力だ」八咫は言う。
「俺が…?」凪は腕をおろす。
「そして、お前はまだその力を全く使いこなせていない。」八咫は続ける。
「貴様と俺は出会ってしまった。だから見届ける、強くなれ!凪!」八咫はそう叫ぶと、またしてもあの時のように黒い炎に包まれる。
「あ…おい!!待て!!!」凪は叫ぶ。また消えるのか。なんもわからないじゃないか。ちくしょう。見届けるってなら教えてくれよ!
しかし、凪の思いも届かず、そこに八咫はもう居なかった。
呆然とする凪。持っていた力…?でもあいつと出会ってから発現した。さっぱり分からない。でも一つだけわかったことがある。
「強くなれ」
誓約を交わしたり、戦ったりして、強くなる。そうすればわかるのかもしれない。凪はそう感じた。
よく見ると、周りには霧が立ち込めていた。
そしてその霧が少しづつ晴れていくと、先程までの駅の景色が現れた。
「あ…おい!!」
後ろから清張の声が聞こえてくる。
振り向くと仲間達が焦りながら凪の元へ走っている。
「お前…いきなり走り出したら、突然霧が出てきて…消えちまって…」清張が息を切らす。
「凪ぃ…びっくりしたよぉ…」白助は泣いていた。
「いや…悪かったな」凪は動揺しつつも一旦は謝る。
「俺がこの力に目覚めたきっかけのやつがいたんだ」凪は焜創を見ながら話す。
「…!?それどういう意味だ?」清張は聞く。 「俺もわかんねえんだよ。だから色々聞こうと思ったけど…消えちまった。」凪は残念そうに話す。
「そっか…」白助も落ち込んでいる。
「でもよ」凪は続ける。
「強くならなきゃって思ったぜ。この力を知るためにもそれに、誰かの助けになる為にも」凪は拳を握りしめて話す。
「…なんかわかんねえけどよ」清張はそんな凪の顔を見て話す。
「勝手にどっか行くんじゃねえよ、俺らもいるんだからよ」清張は言う。
凪はその言葉にはっとする。俺1人だけじゃない。この力は仲間とともにある。ただ誓約を交わすんじゃない。仲間を作る。そして、俺も強くなる。凪は改めて感じた。
「…ああ!」凪はその言葉に笑顔で返す。
仲間たちの結束が改めて強くなる。しかし、謎も残る。見届ける。とはどういう意味なのか。なにか終わりでもあるのか?凪は疑問を抱えつつも、仲間たちの方を見て、前に進もうと決めた。背中を預けられるやつらがいる。それに守りたいやつもいる。今は進もう。そう思い立ったその時だった。
「あ!」白助が叫ぶ。
「あ!」清張も叫ぶ。
「あちゃー…」福郎は頭を抱える。
「あ…」凪は呆然とする。
電車が、行ってしまった。
「何時間か後には一応来るけど、夕方になるな…」
先へ進もうと思い立った矢先に、出鼻をくじかれたと感じるのであった。
しばらく時間を潰した後、やってきた電車に乗り込む一行。
ここからは電車の旅になる。
「でんしゃーでんしゃー」白助は目を輝かせながら窓を眺めている。
「…あんまりはしゃぐなよ」清張もそう言いつつ窓を眺めている。
「そっか電車も初めてか」凪はそんな2人の様子を見てぼそっと話す。
「…都会っ子はすーぐそうやって、上に立とうとするよなー」清張は凪のことを横目に言い返す。
「いや別にそういうつもりじゃねえよ」凪は返す。
「でもまあ…いろいろ回ったけど、恵まれてるなって感じたよ」そう続けて凪は話す。
「…?どういうことだ?」清張は聞く。
「お前のところとか、白助の親がいなくなっちまったとか、色々聞いてさ、そんでこの街並みだろ」凪は海沿いの町のきれいな風景を見る。
街並みは新しい建物に、きれいに舗装された新しい道路が見える。しかし、それはなぜ「新しい」か凪は容易に想像がついた。
「俺も親が死んでさ、ずっとひとりぼっちだったけど、面倒見てくれる幼馴染の親とかもいるし、何より…」凪は車窓の奥を見ながら話す。
「電車もバスもたくさん来るし、それは、いろんな人がいろんなことを頑張って町を作っている。そんな中俺たちは生かされてるんだなって。」
「何だよ急に、人が変わったみてえに」清張はぶっきらぼうに言う。
「いや…」凪は依然として車窓を見続けている。
凪の脳裏には先程の八咫の姿があった。あいつと出会ったことで得た力。しかしその力のせいで縦浜に戻れないかもしれない。そう感じていた。処刑。なぜ自分なのか。最初はあいつのせいだと思っていた。しかし、どうやら俺自身が生まれ持っていた力が発現したらしい。何もないと思っていた自分。しかし、この力があれば、ヒーローのように誰かを守れるかもしれない。でも、かつてぞんざいに扱っていた周りの環境には戻れないかもしれない。そう考えると、恵まれていたのだなと思うのであった。
「美奈…」
親のいない自分を引き取ってくれた家にいるどんな時でも寄り添ってくれていた幼馴染の姿を思い浮かべる。もう、二度と会えないかもしれない。そっか、人生ってこうして突然別れがくるんだな。そんなこともこの風景に感じている。
「ここも、かつてはいろんな家が立ってたんだろうな」
きれい、ということは最近建てられたということでもある。それが全部。一度、何もかもなくなってしまったから。
ガタン、ガタン、と電車は揺れる。別れを知った若人達を乗せて。
そして景色は流れて行って、目的地である豊丘に近づいて行ったのであった。
「なんもないね」白助は思わず言う。
「ああ、なんもない」清張もぼそっと話す。
豊丘駅は小さな駅だった。そして、先ほど見てきた景色と同様に新しい建物になっていた。
しかし、岩城と違ったのは、周りに何もなかったことだった。
元々、大きな町ではなかったが、それにしたって、建物が少なかった。
「この町の近くで、発電所が爆発したんです。それで帰ってこれなくなった。人が入れるようになったのは数年前のことです」福郎は無感情に淡々と説明する。
「…」凪は黙って町の様子を眺めていた。
そして、しばらく眺めた後、こうつぶやいた。
「俺さ、きれいな建物を見て、新しい建物を見て、悲しくなったのは初めてだよ」
「そうですか」福郎は凪の言葉を聞き、そう話す。そして続けて、
「確かに悲しいことかもしれません。しかし、前に進んでいく、みんなで力を合わせていけば、未来は明るいと思います。」福郎は話す。
「俺さ、俺のこの力で、なにかが変わればいいと思っていたんだ。でも、清張とか、白助とか、福郎たちの力で、強くなれた。一人じゃ何もできなかったんだ。」凪は拳を握りしめる。
「みんな、つながってるんだ。だから別れは寂しいし、つらい。」凪は続ける。
「だから、別れないように強くなるよ。俺。」そう凪は仲間たちに話しかける。
「さっきから変だなと思ってたけど、そういうことかよ」清張は少し察したのかふん、と鼻を鳴らす。
「いろいろ思うのは勝手だけどよ、この町の人たちはそんな暗い気持ちで生きてないと思うぜ」清張はそういうと、駅のちいさなロータリーのバス停で話す人たちを見る。
「ほら、笑顔じゃねえか。ああいうのをみたい、でいいじゃねえか」清張はそう話す。
「…そうだな!なんか色々あって、考えこんじまったけどもう大丈夫だ!」凪は曇りが晴れたように笑顔になる。
「さて、じゃあそのこうもり傘のやつを探すか!」凪は改めて目的を言い聞かせる。
「はい、どうやら夕方になると現れるようなので、少し待ちましょう。」福郎は話す。
「なら、海が近いから、いったん見に行くか!」凪は提案する。
「ほんと!でんしゃから見えたりしてたから行きたかったんだ!」白助は喜ぶ。
「じゃあ、軽く眺めてから、駅に戻りますか」清張も提案に乗る。
凪たちは海のほうへ向かい、踏切を越え、坂道を登り始めた。
海はきれいだった。周りには何も無かった。かつて栄えていたであろう漁港も跡がなかった。
それでも、海はきれいだった。海猫が高い声で鳴いていた。
「いかなきゃ」
段々と海が夕焼け色に染まっていく。
皆が海に見とれている中、凪が言った。
そしてそれに黙って頷いて、仲間たちは凪と一緒に駅に戻るため、坂道をまた登り、降りて、そして踏切まで向かう。
夕日が少しずつ落ちていく。駅にはまた今日も傘を持ち、誰かを待つ男の子が現れた。
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