第20話 凪の新たな力。盾。

 「ゴゴ…ギギ…」雑鬼達は後ずさりする。

 目の前の人間、すなわち凪のオーラが変わったからだ。

 凪はオーラを身にまとっている。新たな力を得たと同時に力も上がっているようだ。

 「これは霊力…?やっぱり妖力に応じて上がるんだな…!白助!お前結構やるな!」自身に湧いてくる力をひしひしと感じる、そしてそれが白助の本来の力だとわかると思わず褒める凪。

 「なんだかおいらも…力が湧いてきたよ…!」白助も湧いてきた力を噛み締める。誓約を交わすとお互いに力が増えるというのはなんと頼もしいことか。

 「さて…」凪は改めて雑鬼たちの方を見る。

 「反撃開始だ…!」そう言うと凪は雑鬼たちの方へダッシュする。

 「ギャギャ!」雑鬼達は焦り始める。先程までの獰猛な様子とはうってかわってまるで烏合の衆と言える。

 「(とは言ったものの…)」凪は右手を見ながら考える。

 「どう変わったんだ…?」変わった感覚は確かにある。しかし、どう変わったのかは具体的にはわからなかった。

 「ぐぎゃ!」凪が隙を見せたと感じ、飛び込んでくる一匹の雑鬼。

 「うるせぇ!」凪はすかさず、拳を振り下ろし、叩きのめす。

 「あぎ!」雑鬼は怯み、灰になって消える。

 「!?」凪は驚く。先程までは怯ませることが限界だったが、消滅させることができた。力が上がったからなのか。

 「」「(こいつ…案外やれるのかもしれない…!)」凪はそう感じ、ぐっと拳を改めて握りしめると、別の雑鬼に向かって走り出す。

 「グィィ…」雑鬼達はそんな凪を見て、恐れ始める。

 そして、一匹の雑鬼が「ギャ!」と叫ぶと、その雑鬼に向かって、走り出す。

 「…なんだ?」凪はその足を止める。

 清張や福郎が相手をしていた雑鬼も攻撃をやめ、そいつのほうに走り出した。

 「…いやな予感がするぜ」清張はそう話すと、水の玉を作り、雑鬼のほうに飛ばす。

 「ギギ…!」しかし、号令をかけたその雑鬼がその水の玉をはじきかえす。

 「なっ…!?」清張は驚く。そして、「あいつ、ただの雑鬼じゃねえぞ!」そう感づいた清張は叫ぶ。

 よくみると、まがまがしいオーラを放っている玉のようなものを持っている。

 「何だ…?あれ…?」白助はわからないながらもその異様な雰囲気を放っている玉に恐れおののく。

 その玉を飲み込む雑鬼。

 「ゴ…ゴギャ!!!ガ・・!!」

 苦しみだす雑鬼。すると、腹のあたりが紫色に膨れ始める。

 「…!?」凪たちは驚く。

 「ゴ…ガーーー!!!!」そこから体が異形へと変化を始める。大きくなり、手や足はさらに尖り、他の雑鬼と比べ何倍も大きくなった。

 「お…おいやべぇぞ!」清張は後ずさりする。

 「くそ…なんだよあれ!」凪は恐れながらも立ち向かおうとする。

 「あ…ん?」白助は恐れて、違うところを見た時に、すっと消える黒い影を見る。

 「なんだろ…?」白助はその消えた影があった場所を見続けていると、

 「白助!」凪は叫ぶ。

 「やべえぞ…!食い始めた!」見ると、先程巨大になった雑鬼が、他の雑鬼を食らい始める。

 すると、食べた数に応じて体が大きくなったり、より皮膚が硬くなったりしていく。

 「くそ・・!周りのやつを食って、成長してるのか!」

 清張はそう話し、咄嗟に水の玉を作り、また牽制しようとするが、巨大化した雑鬼は当たっても微動だにしなかった。

 「おいおいおい…どんどんでかくなっていくぞ!」雑鬼はもはや別の妖怪と呼べるほどに大きくなっていった。凪たちはその様子を見上げている。

 気がつくと、大勢いた雑鬼は跡形もなく居なくなり、目の前にいる巨大な妖怪だけになっていた。

 「…まるで見上入道だな」清張はぼそっと話す。

 「見上入道?」凪は聞く。

 「見上げる度にでかくなるってやつだ。こいつは上限あると信じたいが…!」清張は話しながら身構える。

 「来るぞ…!!」

 見上入道と言われたその妖怪はその巨大化した手を凪達に振り下ろす。

 「わぁーー!!!」凪達は全員で走り出す。

 

 ドシーン!!


 砂埃を上げ、地面に叩きつけられる巨大な腕。

 たちまち風圧が発生して、凪達は吹き飛ばされる。

 「どわぁー!!」商店街の壁に叩きつけられる凪達。

 「くっそー…痛ってぇー」凪は頭を手でおさえ、立ち上がる。

 「ちきしょう…」清張も頭をおさえている。

 「あんなのがまた来たらもたねえぞ!」清張はイライラした様子で叫ぶ。

 焦る凪達に対して、容赦なく二の矢である拳を振りかざそうとする見上入道。

 「おいらが…守る!」その様子を見て、ばっ、と飛び出す。

 そして、「ふん!」と力を込め、先程よりも特に大きい結界を張る。

 「おお!」凪たちは感嘆する。

 そんな凪たちのもとに見上入道は殴りかかる。

 白助は力をさらに込め、来る衝撃を抑えようとする。

 しかし、大きく迫りくるその拳よりははるかに小さいその結界は拳がぶつかるとともに、瞬く間にひびが入り、砕けそうになる。

 「(どうしよう…力が足りない…!)」白助は全身に力を込めて、何とか耐えようとするが、結界にひびが入り続ける。

 やられる。そう思った時だった。

 結界の上を影が通る。

 そして、光とともに、大きな盾のようなものを出すと、その勢いで見上入道の拳がはじかれる。

 「!?」一同は驚く。

 その盾を出し、窮地を救ったのは、新たな力を手にした凪だった。


 凪は一瞬のうちに考えていた。

 白助が救ってくれた。しかし、長くはもたないだろう。それどころか一瞬で結界が壊されるかもしれない。

 なら、だったら、白助の力が使えれば、いや使えばいいのではないか。

 考えている暇はなかった。結界の上を飛び越し、そして、こう念じた。

 「(みんなを守れる力を…!)」そう思った時、拳からは光り輝く結晶のような盾が構成されていた。その姿は白助の結界が五角形の盾となり現れたようだった。

 そして、飛び上がった勢いとともにぶつけた盾の力で、見上入道の拳を受け止め、さらにはじき返した。そして、その勢いでよろける見上入道。

 「ぐぉぉぉぉ!!」大きな叫び声をあげながら、体勢が崩れたのを戻そうとする見上げ入道。

 「よし…!」その姿を見て、やれると確信する凪。

 「おおお!!」ほかの三人は喜ぶ。

 「すごい…!すごいよ!凪!」白助はぴょんぴょんしながら凪のほうを見る。

 凪は地面に降り立つと、体勢を戻した見上入道のほうを見ながら、仲間たちに話しかける。

 「まだ終わってねえ!けど、次で終わらせるぞ!」凪は檄を飛ばす。

 「ああ!だがどうやって!」清張は答える。

 「俺の盾は一瞬だ。でも今の一撃で分かったことがある。」凪は話す。

 「作った盾はこの焜創の力を得ている。つまり攻撃にも使えるってことだ。白助!」凪は白助に話しかける。

 「な!なんだい!?」いきなり大きな声で呼ばれて驚く白助。

 「お前の結界は小さく作れるか?手のひらサイズくらいに」凪は聞く。

 「作れるよ!豆腐くらいに!」そう話すと小さい豆腐サイズの結界を作る白助。

 「それがわかれば十分だ。」凪はにっと笑う。

 「おめえ、そんな小さく盾を作るって、どうしようってんだよ?」清張は凪の思惑がわからず困惑する。

 「清張!」そんな気持ちを払拭するかのように凪は清張に問いかける。

 「な…なんだ!」清張も大きな声で呼ばれたので少し驚く。

 「お前の水流であいつの顔まで飛ばせるか?」凪は聞く。

 「ああ、できると思うぜ。乗れるかはお前次第だけどな」清張は自信ありげに返す。

 「よし、いいぜ。」凪は嬉しそうにその返事を受け取る。

 そして、見上入道のほうを見てこうつぶやく。

 「今度はあいつを見下す番だ。」凪は見上入道の顔をじっと睨み、そしてまたにっと笑った。

 「ぐおおお!!!」見上入道は声を荒げ、凪たちに再び拳を振りかざそうとする。

 「来るぞ!」凪たちは構える。

 「白助!お前は清張たちを守れ!俺は清張の力で一気に飛び出す!」凪は二人に作戦を伝える。

 「凪は?」白助は聞く。

 「俺は、あいつに一発お見舞いしてやる!」凪はそう話すと、膝をぐっと曲げる。そしてて清張に

 「ジャンプしたら、水流で押し上げてくれ!」凪は話す。

 「(ジャンプ力は妖怪たちのおかげで上がったが、あいつの顔には届かない。)」

 「(だから、水流で一気に上昇できれば…!)」凪は頭の中でそう考えていた。

 そして、「せーの!」と叫び、ジャンプをする凪。そして、それに合わせて水流を作り、上まで飛ばす清張。

 まるで昇り龍の如く、水流が上空まで登り、凪を押し上げる。そして、凪の正面にはよりおどろおどろしい顔になっていた見上入道と化していた巨大な雑鬼が目の前に現れた。

 「見上げてんじゃねえよ!!」そう叫び、ぐっと右手に力を入れる凪。

 そして、「(盾…小さく…そして硬く…そして…)」と念じ、力がほとばしると同時に

 「強く!」そう叫ぶ凪の右手には五角形の小さく、しかし宝石のように輝いている盾の拳が出来上がっていた。

 「よし!」凪は水流の勢いそのままに拳を振りかぶり、見上入道の顔の前に出る。


 ブン!!!


 そのまま、思いっきり殴り、拳を顔面にたたきつけた。

 明らかに力を増したその盾の拳を食らい、大きくよろける見上入道。

 「ごぁぁぁぁぁぁ!!!」見上入道はそのままズシン!!と倒れ込み、大きな振動と土埃をあげ、地面に横たわった。 

 「わあああああ!!!」その土埃から守るために結界を張る白助。そして叫びながらもなんとかしのぎ切った。

 土埃が少しずつ晴れてくる。

 地面に横たわり、そして仰向けになった見上入道が見える。そしてその体の上に人影が起き上がるのが見える。

 凪だ。

 しかし、起き上がったと同時にまた倒れ込む。

 「凪!」白助は叫ぶ。どうやら、半ば捨て身の一撃だったので力を使い果たしたようだった。

 完全に倒したかどうかわからない。とにかく、凪が立ち上がってくれれば…そう思った時だった。

 見上入道の腕がピクリと動く。

 「!?」清張はすぐ気が付く。

 「凪起きろ!!まだ終わってねえ!吹っ飛ばされるぞ!」結界の中で叫ぶ清張。

 しかし、ピクリとも動かない凪。

 「まずい…!」清張はすぐに白助の方を見る。

 「結界を閉じろ!凪を助けに行く!」

 白助はそれに応じると、すぐ結界を解く。そして清張は凪のもとに水の力で飛び上がり、すぐに向かおうとする。

 しかし、ぐん、ぐん、と見上入道が起き上がり始める。

 「やべぇ…!」清張は急ぐ。

 凪は体から転がり落ちる。明らかにぐったりしている。

 清張は水の勢いを最大限強くして、凪のもとにダイブする。

 「おぉら!」清張は凪の体をその両腕で受け止める。間に合った。

 勢いのまま、抱きかかえつつ地面に転がる清張と凪。

 上を見上げると、見上入道が二人を見下ろしていた。

 「やべぇ…!」凪の決死の一撃では倒せなかったのである。

 見上入道は巨大な足を上げ、二人を踏みつぶそうとする。

 「くっ!」清張は水で逃げようとするが、妖力が足らず、何も出なかった。

 「(限界かよ...!)」清張は目をつぶる。

 凪はいまだに動かない。

 清張は白助と福郎が叫びながら走ってくるのを感じていた。馬鹿野郎来るんじゃねえ。巻き込まれるぞ。そう思いつつも何も動けない。

 容赦なく、清張と凪に落とされ、踏みつけようとする巨大な足。

 

 しかし、その足が二人に届くことはなかった。


 そう、朝日が昇る。朝がやってきたのだ。

 

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