第34話 鎧を砕く"黎明の焔"



静かに見下ろすエスメリアに向かい、飛び込むゴブリン(変異種)その目は僅かに、黒く光り、残像を残した。



だらりと大剣を左下に下ろすと、エスメリアに向かって疾走する。


大剣がズリズリと耳障りな音を立てながら、大地を削り、土塊を弾き飛ばす。


大地から空を裂くように振り上げられた大剣はエスメリアの体を切り裂いた。ように見えた。


金色の炎が揺らめくと、それが宙にキラキラと溶けるように消えると、


振り上げられた大剣の隙を縫うように、エスメリアの拳が、疾風のようにゴブリン(変異種)の脇腹へ突き刺さる。


ドンッ!


重い音が森に響く。

ゴブリン(変異種)の体が宙に浮くと、金色の炎が鎧を這うように広がると、鎧が粒子になり大地に降り注いでいく。


ーーグォオオオン!!


エスメリアが遠吠えするように、天に向かい咆哮をあげる。


空から蛍の光の様な金色に輝き、揺らめく炎が雨のように降り注ぐ。


ゴブリン(変異種)の体の上に雪のようにつもる。


すると、音もなく、雪解けのように体が崩れ落ち、消えていく。


ゴブリン(変異種)の体を同時に崩していくと、キラキラと輝く、金色の灰が風に乗り、空へと上昇し、森の何処かえと消えていく。


蜂達を包んでいた炎も宙に溶けるように消えていく。


「グォン」


エスメリアが"疲れたの"と地面にペタリと尻もちを着く。


ポン!


と音を立てて、ラベンダーシルバーの毛皮に金霞の瞳の小熊へと戻る、


進化したことは確かだが、今の姿はスキルによるものなのか、


私は尻もちをついた、エスメリアの元へとゆっくりと進むと優しく首筋に嘴を擦り付ける。


(お疲れ様。エスメリア)


小さな体で、誇らしげに胸を張り。

「クキュウ」

"パパ、守れたよ"


(あぁ、守れたな)


エスメリアは嬉しそうに、疲れた体を動かして私の嘴を掴むと、顔を擦り付ける。


この姿を見るとまだまだ子供で、愛らしい存在なんだと感じだ。


力はあっても、まだまだ儚い命に思えた。


そっと首をあげて、翼で胸に抱き寄せ、包み込む。


《癒しの風》でエスメリアの疲労が取れるように、思いを込めて。



「クキュウ」

"はちさん、大丈夫?"


エスメリアが私を見上げ、首を傾げた。


そっと翼を広げて、エスメリアに蜂達が見えるようにする。


エスメリアがゆっくりと振り返る


蜂たちは小さな体をプルプル震わせて、エスメリアに擦り寄ろうとしていた。


私は優しくエスメリアの背中を押す。


ポテポテと少しおぼつかない足取りで蜂の元へと歩いていく。


「クキュウ?」


エスメリアの足元に、蜂たちが群がると、ふわふわの胸の毛をエスメリアに擦り付けた。


「クキュウ!」


優しく胸の毛をエスメリアが撫でると、"ふわふわなの!"と声をあげる。


エスメリアと蜂達が戯れている時間が続く。

戦いの後とは思えない、暖かい光景が広がっていた。


30cm程もあるクマバチが15匹エスメリアに擦り寄る姿は、襲われているようだが、エスメリアの楽しげな声が静かになった森の中に響いていた。




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