第22話 おかえり



痛む左足を庇いながら空を飛び、住処を視界に捕える。



ゆっくりと住処の中へと降り立つと、レティシアの腕の中から抜け出し、エスメリアが駆け寄って来た。


「クキュウ、クキュウ!」と鳴いて、私の体に力一杯引っ付くと、胸の羽毛に頭を擦り付けた。


心配だったのだろう。私が帰ってきてくれたことをものすごく喜んでくれた。


私は優しく首筋を嘴で撫でる。


喜ぶように「クキュウ!クキュウ!」と鳴くエスメリアに戦いの高揚感、終わってしまった喪失感が暖かい感情で塗り替えられていく。



「終わったのか?」


バナードが何故か抜いていた剣を鞘に戻しながらそう問うてきた


(あぁ、だが想像よりも強かった)


私はそれだけ答えるとエスメリアを嘴で強く一撫でした



エスメリアは喜んではしゃぎ始めたので落ち着かせるために翼で包み込む。


左足の付け根以外には怪我は無い。焦げた箇所もない。


翼に包まれるとエスメリアは安心するようにペタリと座り込むと徐々に目が細くなっていく。


エスメリアなりに警戒していたのか、心配して気疲れしてしまったのか、眠気が出てきたようだ。


突然エスメリアが「クキュウ?!」と鳴くと翼の中でモゾモゾと動き私の左足の付け根を見上げる。


その目には心配の色が浮かんでいた。


私は大丈夫だとエスメリアに頭を擦り付けると、エスメリアも答えるように擦り付け返した。


そっと頭を離すと、エスメリアが傷を舐めようとした、


慌てて首筋を嘴で掴むと


(汚いからダメだ)


念話でそう伝え、エスメリアを翼で包み込む。



怪我にはバイ菌があるから消毒しないといけない。


後で川で洗おう。


エスメリアを落ち着かせるように翼で包み込んで考えているとエスメリアは眠ってしまった。



その顔は安心感に包まれていた。


私はフッと力を抜いて笑うと、優しく寝床に寝かしてやる。



「炎王の亡骸を確認しておきたいんだが、置いてきたのか?」


(炎王の亡骸は回収してある。)


私はエスメリアの寝息を確認した後、住処から出る


後ろからバナードたちが着いてきた。


川の近くで炎王、また炎龍の亡骸をアイテムボックスから取り出す。


夕暮れの日が当たり、黒銀の鱗がオレンジ色を帯び、キラキラと輝き、青い炎が消えた白銀の鬣が風に揺れていた。



死してなお、威圧感のある炎龍の亡骸を見たバナードたちは驚き、目を見開いた



「私の知っている炎王ではない」


「私もこの魔物は知らないわ」


カルトンは、ジッと炎龍を見つめ


エメリーは近くから見て、観察していた


「本当にこれが炎王なのか?」


(そうでは無いのか?初めはトカゲのような姿だったぞ)


私は体を洗うために川の中に入っていく。


ジンジンとしていた傷が冷たい水によって冷やされ、とても気持ちがいい


「トカゲ?イグニアス・ドレイクのことか?」


(さぁ?私はその魔物の名前は知らない。)


私がつけた名前なら知っているが、


「ねぇ、これってドラゴン?」


レティシアがオリアナに聞いた


オリアナは首を傾げた。


「ドラゴンとは姿が全く違うのよね、でも感じる魔力や、死んでいてもこれほどの威圧感があるなんてドラゴンやSランクの魔物と同等かそれ以上よ」


レティシアは私に向けてそういった


(私の中では"炎龍"と呼んでいる。)


「炎龍、、ドラゴンと並んでも名前負けしないわね」



考え込んでいたバナードが口を開いた


「すまないが、私の独断で判断できない。出来れば我が国の国王に会ってもらいたい」


何故いきなりそんな話になるのか、


(なぜ私が人間の王に会わなければならない?)


川の中で私は気持ちよくなり、細めていた目を開き、バナードを見た


「貴殿がこの森の主となった。いや王と呼んだ方がいいのだろうか。とにかく危険な存在として認知され討伐隊を組まれ森を荒らされる前に交渉可能な存在として国王に認めて貰った方がいいと私は判断した」


確かにこの森を荒らし、エスメリアに危害をくわえられれば私は恐らくその人間を皆殺しにするだろう、


(炎王を討伐出来なかった人間たちが、炎龍に勝った私を討伐しに来ると?)



バナードがなにか言いかけた時、カルトンが大きな声を出した


「難しい話だな!もっとこう、倒せてよかった!でいいじゃねぇか」


バナードが頭を抑えて溜息をつき、エメリーが慌てたようにカルトンに駆け寄ると何か言った後にバナードに頭を下げていた。


レティシアはフフっと笑い、つられてオリアナも笑った。



「そうだな、今日は一先ず帰ることにする。後日また来る。その時に私の屋敷に招待したい。それまでに考えておいてくれ」



(考えておく)


「では、炎王の討伐感謝します」


バナードが胸に手を当て、綺麗に礼をして帰路に着く。


カルトンは「またな!」と言って帰り際にエスメリアの寝顔を眺めると帰っていった。


エメリーは礼をして、レティシアとオリアナはヒラヒラと手を振って後を追った。



静かになった中で私はしばらくして川から出ると水滴を飛ばして炎龍の亡骸をしまって住処に戻る。



空腹感はあるが森を、エスメリアを守れたことえの安堵で、何も食すことなくエスメリアの寝床を包むと静かに眠りについた






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る