Episode6→塩の作り方
「味付けは文明の種火だ。塩ひとつで世界が変わる」
そう言っておっさんは、にやりと笑った。
「……で、どうやって作るんだよ、その塩」
ソウが問いかけると、おっさんはにんまりして、空中に手をかざした。
「海水を汲んで、煮詰める。ただそれだけだ」
「それだけって、海なんて作ってないだろ?」
「だからよォ、拠点の近くに塩田を作らせりゃいいんだよ」
おっさんは鼻を鳴らして笑う。
ソウは肩をすくめた。
「海水なんて、あいつら見たこともないんじゃないか?」
「そこは“神の言葉”ってやつの出番だな」
タイミングを見計らったように、ミュリエルがそっと手を挙げる。
「皆さま、落ち着いて聞いてくださいませ。海の水を煮ると、白い粉ができますの。これは決して怪しい粉ではありませんわよ」
「ボケてんじゃねえよ」
「失礼しましたわ。うふふ」
おっさんがちらりとミュリエルを見たが、何も言わずに続けた。
「塩ってのは、人間にとって欠かせねぇもんだ。保存、殺菌、そして味付け……これがあるだけで、食い物の価値が跳ね上がる」
「……戦争の火種にもなるかもな」
「だからこそ、神の恵みってやつで与えるのがちょうどいい。ありがたみが増すってもんよ」
「なんか悪どいな、おっさん」
「神様は時に試練もくれるもんだろ?」
ミュリエルが胸に手を当てて微笑む。
「まあ、神とはかくも慈悲深く、かくも計算高きもの……なんて、素敵ですわねぇ」
「皮肉が効いてんのか効いてないのかわからないな」
「効いてるかどうかは、あなた次第ですのよ、ソウ様」
ソウは深くため息をついた。
「……よし、じゃあ塩、やるか」
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