【1989年11月】



 秋が深まり、木々の葉が赤や黄に色づいていくなか、危険な動きが生じていた。


 インコ現理教という奇怪な教団の名が、前世と同様に週刊誌の見出しを飾っている。批判キャンペーンは激しいが、カルト的な存在にとっては、むしろ信者の結束を促す燃料となる場合が多い。


 信者数の急増、献金、奇妙な修行。そして、ついに板城弁護士一家の失踪が報じられた。前触れなく、まるで煙のように消えた一家。ただ、実際には、テレビのキー局の一つであるBSTが、板城弁護士のインタビュー動画をインコ現理教の幹部に事前に見せていたというのが、後に露見する事実である。


 BSTは、本来致命的なはずのこの振る舞いを行った後にも、なぜか報道番組を作り続けていく。特に「報道特報」という番組は、捏造に近い偏向報道を繰り返し、後に「不適切報道」という流行語まで生み出すに至るのだった。


 一方で、前世ではインコ現理教を先進的だなどと褒めそやす文化人も多く出現していた。その流れは、今回も止まらないのだろう。


 止まらない大きな流れとしては、冷戦構造も変化しつつある。ベルリンの壁と呼ばれた、東西のベルリンを分かつ冷戦の象徴だった壁が、あっさりと開放された。そして、市民が壁をツルハシ状の工具で壁を壊そうとする映像も世界に流れたのだった。


 前世の俺は、これまでずっと続くと思っていた冷戦が終わりそうであるのに驚愕したものだったが、二度目だけに冷静に歴史を観察するモードに入っていた。


 ソ連という、鉄のカーテンの向こうの超大国と見なされていた存在が、その実態を露わにして崩れつつあった。構成国は次々と独立を宣言し、ロシアの至近にあるウクライナも、数年内に独立国家となるだろう。


 これで、平和になるかと思っていたのだが……、三十年後、ロシアとウクライナの間で本格的な戦争が勃発すると、誰が考えただろうか。


「シャルロット……、寝るのなら毛布を用意しますのに」


 秋の深まりによる変化として、ミケのお腹が大きくなっていた。


「妊娠しても、うちにいるってことは、ここを安全だと思ってくれてるんだろうなあ」


「もう、家族ですね」


 エルリアが眠る猫の眉間をかきながら、穏やかな声でそう口にした。ここまで来れば、異論はない。ばあちゃんも、既にそのつもりのようだった。


「生まれてくる子はどうしようか」


「うちで育てればいいではありませんか」


「うーん。子猫のうちはいいんだけどなあ。あと、内猫にするかどうか、という話もあるし」


「腹案はあるのですか?」


「もらってくれるところを探す感じかな」


「シャルロットの子なら、きっと大人気ですね」


 既に親バカに近い心境のようである。まあ、俺としても同意見ではあるのだが。


 猫の繁殖力は高いものとなるので、自然のままに家の内外を行き来させて、同時に安全な退避場所を設定すれば、加速度的に増えて多頭飼い的な状況になっていくだろう。


 どう考えていくか、エルリアと相談していく必要がありそうだ。ただ、もう少し後でもよいようにも思えていた。

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