第22話 Continuityとの対決
「いた。間違いない――Continuityだ」
暗視機能つき双眼鏡を覗いて零士がつぶやいた。零士は三名のメンバーを率いて奈良県南東部の古墳に来ていた。
既に深夜を回った時間だ。黒塗りのSUVから数人の人影が荷物を運び出すところだった。
荷物の中には投光器や三角コーンまで含まれている。
「よくも、いけしゃあしゃあと……。落ち着いたもんだぜ」
どう見ても「工事現場」といった様子である。現に彼らは反射板つきの作業着で身を包んでいた。
盗掘作業には時間がかかる。その間に見つかった場合のことを考えて、夜間工事に偽装しているのだ。
工事を装えば、堂々とライトを使える。作業の効率も上がるのだった。
「英二と優太はぐるっと回って逃げ道をふさげ。挟み撃ちだ。俺と史郎は正面から突っ込む。今から五分後だ」
敵は五人。自分たちより一人多いが、こちらには奇襲の利がある。混乱に乗じて打撃を与えればそのまま押し切れるだろう。
「今日こそとっつかまえて、警察に突き出してやる」
この一か月の間に零士は二回Continuityの盗掘現場に居合わせている。しかし、二度とも敵を取り逃がしてしまった。敵の中にいる幹部が操る錬金術に邪魔されたせいである。
「今度は逃がさんぞ」
零士は腰に装着したモーコンを握りしめた。改造済みのそれは零士が操る影の流れよりも強い電撃を発することができた。
部下の三人にも同じものが支給されている。今回ばかりは火力で劣勢になることはなかった。
「お前たちが欲しがっている賢者の石ならここにある。自分の体で味わってみろ!」
零士は音もなく現場に近づき、五分後に襲撃を開始した。
現場は投光器の明かりに照らし出されており、零士からは敵の様子が丸見えだった。
反対に、零士たちは暗闇から突然現れたことになる。
「What? Enemy!」
零士は見張り役に襲いかかったが、口をふさぐ前に警戒の声を上げられてしまった。地面を掘っていた四人が声を聞きつけて振り返る。
「食らえっ!」
零士は相手を押し倒しながら、その首筋にモーコンの先端を押しつけた。スイッチを押し込むと電撃を受けた男は棒杭のように硬直した。
電流値を調整してあるので、男が死ぬことはない。それでもバットで殴られたくらいのダメージがあるはずだ。しばらくは動けまい。
素早く立ち上がった零士は残りの敵を探した。四人の敵は盗掘用のシャベルを手にしたまま、こちらに向かって走り出していた。
(四対二の戦いだと思っているな?)
「閃光防御!」
味方のために叫びながら、零士は額に上げていたゴーグルを目の上に下ろした。同時に右手のモーコンを頭上に掲げてスイッチを入れる。
バンッ!
強烈な白光が辺りに広がった。水素を放出しながら電撃を発射したのだ。零士を目掛けて走っていた敵たちは無防備に閃光を見つめてしまった。
「Shit!」
「What the hell……!」
視覚を失った男たちは罵りながら立ち止まった。やみくもにスコップを振り回すことしかできない。
「Drop your weapon! 武器を捨てろ!」
敵の背後に回った英二が、慎重に距離を置いて警告した。抵抗するなら蹴り倒して電撃を食わせる構えだ。
一人の敵がうなりながら振り向き、声の方角にシャベルを振り下ろしたが、英二は余裕を持ってそれをかわした。
「UaAAgh!」
隙だらけの背中に零士が前蹴りをぶち込むと、男は悲鳴をあげながらスコップを頬り出して倒れた。背中に膝を落としながら首筋に電撃を食らわせる。
男はミミズのようにのたうった。
抵抗をあきらめた敵は一人また一人とスコップを捨てて、両手を上げた。零士が油断なく見つめる中、英二が結束バンドを取り出して男たちを後ろ手に拘束していった。
倒れた二人を後に回し、立っている三人目を拘束しようとすると、男は英二の手を逆につかんで体を入れ替えた。
「Fu――Ru――」
「あ、あがっ……!」
「英二っ!」
一瞬で英二は硬直し、白目をむいて地面に倒れた。
英二を倒した男は無言で走り出す。
「待てっ!」
囲みを破られた零士は逃げる男に追いすがろうとした。
「True Moon――」
「しまった!」
走りながら向けられた右手に、零士はつい目を向けてしまった。
BAN!
零士の技を写し取ったように、真っ白い閃光が網膜を貫いた。ゴーグルを外していた零士は視覚を奪われて立ち止まるしかなかった。
零士の目がようやく見えるようになった頃には、走り去った敵はとっくに姿を消していた。
「くそっ! あいつが幹部だったか」
錬金術を操るチーム・リーダーだったに違いない。後一歩に迫りながら、零士は敵に触れることもできなかった。
「零士さん……」
「どうした、英二」
拘束した男たちを地面に転がし、零士は奈良県警に通報を入れた。30分後には県警が男たちを引き取ってくれるだろう。
「あいつ……女です」
「何っ? そういえば声がやけに高いと思ったが――」
姿かたちも男にしては華奢だった。直接腕をつかんだ英二は間違いなく女だったと断言した。作業着にヘルメット姿だったため、逆光の陰で顔は見定められなかった。
「それにしてもおかしい」
零士は「女」との応酬を想い出していた。
「あいつ、布留の言を使っていた」
「あっ!」
Continuityの幹部が影の流れを使ったことになる。なぜ防人だけに伝わる術を、あの女が知っているのか?
「情報が洩れているかもしれない」
「スパイですか?」
「大崎さんに報告しよう」
零士は再びスマホを取り出し、大崎に連絡を取った。
◆
「ご苦労やったな」
「夜中に起こしてすみません」
「構へんよ。どうせ眠りは浅いんや。報告は早い方がええ」
一時間後、零士は大崎の部屋にいた。
二人の前には湯気を上げるコーヒーカップがある。
「『Fu――Ru――』と、確かにそう発声したんやな?」
「はい。間違いありません」
「そうか」
大崎はコーヒーをすすると、苦かったように眉を寄せた。
「しかも女やったか……」
「大崎さん、まさか」
「防人の内部に通じ、影の流れまで使える女とゆうたら……橘君しかおらんやろね」
「そんな!」
口では否定した零士だったが、体の中では大崎の推論にうなずく自分がいた。あの声、あの姿。橘司の存在がぴったりと重なるのだった。
「なぜ……?」
「なぜ裏切ったか、かね?」
先祖代々防人として御陵を守ってきた司が、なぜContinuityの手先となった? 零士には信じられないことだった。
「さあな。金に釣られたか、脅されとったか。それともあたしらの誰かに恨みでもあったンか?」
考えようと思えば、理由などいくらでもありえた。
「あたしらの使命が絶対的な正義ゆうわけやない。Continuityにも彼らなりの正義があるンやろ」
「墓荒らしじゃありませんか!」
「そやな。ほんでも、天下の大罪とゆうわけやない」
御陵を神聖なるものと敬う価値観を持たなければ、地中の遺物を拾うだけの行為だ。現に拘束されたContinuity構成員も数日後には解放される。国外退去処分になるだけで、刑罰を受けるわけではない。
「理由はどうでもええのや。彼女が漏らした情報が問題や」
司は健人と入れ替わるように東京に戻っていた。それ以降防人のパトロール活動には参加していない。
「イオツナイトのことは知らないようでした」
「やっぱりな」
知っていればもっと警戒を強くしていたことだろう。閃光に目を焼かれることもなかったはずだ。
「イオツナイト合成成功のことを知っとったら、古墳の盗掘なんぞに手はださへんかったやろ」
Continuityが求める「
「こうなったら覚悟を決めるか」
大崎は口を引き結んだ。
「どうする気ですか?」
「イオツナイトの存在を公にする!」
目を丸くする零士の前で、大崎はくつくつと笑った。
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