鳥籠に眠る猫 〜たった二人きりの兄妹は、猫の町で春を探す〜

🐏御羊 藍沙🐏

プロローグ・春を待つ猫

「――こうして、猫の神様は娘と結婚して、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


 それは、幼い頃の他愛もない記憶だ。

 怖い夢を見て泣きながら起きてきた幼子だった私を、母が抱きとめてくれた。

 そして一緒に布団に潜り、物語を聞かせてくれた夜の記憶だ。


 「ねこのかみさまって、すごいんだね」


 「そうだよ。今でも猫たちにお願いして、悪い夢を見せる鳥をやっつけてくれるんだ」


 「猫さんすごいね!」


 寄り添う母が、頭を撫でながら微笑んでくれる。


 「そろそろお休み。明日も学校だよ」


 「うん……ねえお母さん、私も猫さんに会えるかな」


 「……夢の中でも良い子にしていたら、会えるかもね」


 クスクスと笑いながら母の胸元に潜り込む。そうして目を閉じれば、夢の入り口はもうすぐである。


 ――幼い頃の、他愛ない記憶。今ではもう、かなわない夢だ。


 これは、私たち兄妹が、春を迎えるまでの物語。

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