クロノトリップ 〜最低レア度の村人が世界を救うために剣士にされた件〜

@hoshikitune1101

第一章

第1話 一番星の目覚め

気づいた時に俺はそこに立っていた。

何もない、土の香りがする広場の真ん中。

空を見上げるとそこに変わらずある青い空。

しかし、元々いた田舎の森とは違い、周りは石の壁に囲まれていた。


「ここはいったい……」


周りを見渡してても俺以外に誰もいない。

あるのは二つの古びた木の小屋。

誰かいるのかもしれないと戸を叩く。


「誰かいませんかー?」


中からの返事はなかった。

扉をよく見ると隙間が空いていて、指をかけるとギシギシと音を立てながら開いた。

しかし、中には誰もいない。

寝床と言わんばかりの藁が敷き詰められている場所と水の入った釜。

棚には土芋が数個と火打石。


「人はいるのかな……?」


誰かが住んでいた感じはするが人がいたという気配がまるでない。

もう一つの小屋はと思い、そちらも同じように声をかけ、戸をたたき中に入る。


「剣?」


立てかけられている錆びれた剣が数本。

農具がいくつか。

農具はまだしも憲兵や衛兵しか持つことを許されていない剣がこんな無造作に置かれているなんてと思いつつも心の中にある憧れから剣の柄を握る。


【ノア★が“錆びれた剣”を装備した】


「ゥワッ!!?」


目の前に現れた窓に驚いてズッコケる。

一般人が剣を持つのは法律違反。

誰かに見つかったのかと思って心臓のバクバクが止まらない。

顔が熱くてたまらなかった。


「なんだよ、これ……」


俺の名前と錆びれた剣っていうのはコイツの事か……。

その窓は触ると消えてしまった。

幻を見たのかと思ったが確かに触れた感覚。

これまで、魔法を使う者は何人か見てきたがあんなの出す奴は見た事ない。

当然、俺も出した事ないし、それどころか魔法は使えない。


「だれかいますかーー?」


恐る恐る声を出してはみたもののやはり誰もいない。


「……やっぱり誰もいないのかよ……」


もう一度辺りを見渡す。

この奇妙な“囲まれた広場”はまるで、何かを閉じ込めるための空間のようにも思えた。


それに――音がしない。風も虫の鳴き声もない。

ただ、空が青いだけ。青すぎるほどに、完璧なまでの空。


「……ほんとに、どこなんだよ、ここ」


心の奥が、冷えていく感じがした。

自分の体は確かにある。呼吸もできてる。

でも、この空間だけが世界から切り離されているような、そんな違和感。


ふと、小屋の外に目をやると――地面に何かが落ちているのが目に入った。


「……光?」


何もない道が淡く光っている。

こっちに来いと言わんばかりに光の道は一直線に伸びていた。

辿るべきかどうかなんて悩む余地はなかった。

不安から握り締めた剣を持ってその道を進む。

道は壁に向かって伸びている。

そして、辿り着いたのは大きな扉が淡く青い光を放って口を開けて待っていた。


恐怖。不安が込み上げる。

光の道は確かにこの扉を指し示す。


「……ふぅ……」


深呼吸をし、剣を握りしめた。

心臓の鼓動が早くなる。

何かが待っているという予感を頼りに扉を通った。


……扉の先は――白かった。


否、何もなかった。

まるで霧の中に足を踏み入れたように、世界が白一色に包まれていた。


足元は確かにある。立っていられる。

けれど地面は見えず、空もなく、ただ淡い光に包まれている。


「……夢か? いや、違う。痛みも、寒さもある」


踏み出すごとに、靴裏にわずかな反響が返ってくる。

見えない床。見えない空間。けれど確かに存在する「何か」の中。


数歩、進んだそのときだった。


背後で、扉が音もなく消えた。


「……え?」


振り返っても、そこには何もない。道も、壁も、あの空も――全てが消えていた。


「閉じ込められた……?」


背筋が冷える。

本能が告げている。この空間は——何かがおかしい——と。


すると、突然。


――カッ


空間の中央に、淡い光が浮かび上がった。


浮遊する水晶のような球体。

そこから、声が聞こえた。


【記録を照合中……確認】

【存在の安定を検知。召喚座標への同期完了】

【任務が開始されます】


「……任務?」


【モンスターの討伐】

【場所 : 夕暮れの草原】


声が告げ終えるのと同時に全身を風が叩く。


光に包まれた次の瞬間、世界が塗り替わった。


まぶたの裏まで焼けつくような光が弾け、思わず目を閉じた。

風の音。草の匂い。柔らかい地面の感触。

気がつけば、俺はどこかの草原に立っていた。


「……夕暮れ、か……」


オレンジ色に染まる空が広がっていた。

遠くには緩やかな丘、その向こうに森の影が横たわる。

足元には背の低い草花が揺れており、風がそれをなでるように吹き抜けていく。


温かく、穏やかで――

だが、それは違和感でもあった。


こんなに穏やかな場所で……モンスターの討伐?


どこかで読んだ冒険譚を思い出す。

そこでは“モンスター”という言葉はお伽噺や戦争の記録の中でしか出てこなかった。


が――


「――ッ!!」


何かの気配に気づいた瞬間、背筋が凍りついた。

草原の先、丘の上に異形の影が立っていた。


それは狼のような四足獣――しかし、首が三つある。

皮膚のようなものはなく、骨と煙で構成されていた。


あれが……モンスター……!?


剣を構える手が震える。

汗がこめかみを伝い、足がすくむ。


――しかし、そのとき。


【新たな存在を検知。召喚ゲート開放】


光の裂け目が、俺の目の前で横に走った。


「えっ……」


その光の中から、誰かが転送されてくる――


そして現れたのは――少女だった。


長い銀髪、背中には小さな盾と細身の槍。

凛とした目がモンスターを即座に捉えた。


「ッ、来るわよ! 下がって!」


「え、いや、俺――」


少女は迷うことなく前へ踏み出すと、身軽な動きでモンスターに向かって駆け出した。

その姿はまるで、戦い慣れている戦士そのものだった。


「くっ……!」


ノアも慌てて剣を構え、彼女の後を追う。

これが俺にとって初めて剣を握った戦いだった。

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