魔法少女を守りたいんです! 〜咲かぬ徒花に命を注げ〜
七詩のなめ
咲かぬ花々
第1話 群青の魔法少女
世界を救うのはきっと選ばれた人なのだろう。
凡人は救われるのをただ待つことしかできず、苦しみ傷つくことしかできない。そういう人たちを端から救っていくのだ。救われる人たちよりも苦しみ傷つきながら。
では、選ばれた人を救ってくれる人は誰なんだろう。傷つき苦しむ選ばれた人を救ってくれる人はいるのだろうか。
群青と鮮紅の輝きが人々を救っていく。幾重もの傷を負い、数々の苦しみを味わい、数えきれない挫折を繰り返しながら、それでも彼女らは人々を救っていくのだ。それはきっと彼女らの宿命で、天から与えられた運命なのだ。
だから僕――荒木龍樹はせめて彼女らが幸せでありますように、と。願いを込めて空を、彼女らを見る。それが僕にできる最大の事だと、この時の僕は思っていたから……。
「君は奇跡を信じるかい?」
逆さ吊りの少年が問いかける。
「君は友情を求めるかい?」
少年は笑っていた。笑える状況ではないと思われるのに、楽しそうに問いを続ける。
「君は使命を達成するかい?」
少年を吊し上げている木材が燃え始める。離れた場所にいる僕にもわかるほどの熱量が皮膚を焼いているはずなのに、なぜか少年は笑ったままだった。
何かがおかしい。これは夢だ。だけど、こんな夢は初めて見た。現実のようにリアル感のある夢なんて見たことがない。
逆さ吊りの少年が揺れ始める。左右に振れる振り子のように揺れる。摩訶不思議な光景を目に焼き付けている僕に、最後の問いが下される。
「君は少女を救えるかい?」
目が覚めるほどの熱量が少年を包み込んだ。やははと雄叫びのような笑い声を上げながら少年は燃やされている。しかし、彼を助けようとは思わなかった。助けられる状況でもなかった。だから仕方ない。少年が言いたかったことはなんだったのか。得ようとしていたものはなんだったのか。それは最後までわからないままだった。
世界が吸い込まれるように消えていく。浮遊感というか真っ暗な底なし沼に落ちていく感覚が僕を襲う。遠くに小さい光が見えた。それに手を伸ばす。掴めそうで掴めないそれに希望を抱いていた。それを掴まなければならないと気がつけばもがいていたのだ。
やがて光が動き出し、僕の体の中へと入り込む。嫌な感じはなかった。ただ温かいという思いが僕を包む。安堵する。安心感を覚える。この光を手に入れたことにより、僕は安全であると直感的に思った。これさえあれば、僕は……。
「……き…………つき………………龍樹!」
どしんと衝撃があった。驚いた僕はすぐに上半身を起こす。どうやら眠っていたらしい。眼を開けた僕の目に映ったのは教室の風景。日差しが差し込む一番奥の席に僕は座っていた。夏らしい暑さの中に、涼しげな風が教室内に入り込んでいた。その気持ちよさについ眠ってしまっていたらしい。眠い目を擦って呼ばれた方を見る。1人の少女が視界に入る。
「亜希。なんだよ?」
僕の名前を呼んでいたのはひとつ前の席に座る五十嵐亜希だった。彼女はスポーツが得意で、運動をするのに邪魔だという理由で髪を短くしている。地毛の茶髪は日差しによって色味を鮮やかにさせている。小さい頃から僕と一緒に遊んでいたことから容赦を知らない彼女は眠そうにしている僕の頭をコツンと叩いた。
どうして叩かれたのだろう。とりあえず時計を見て時間の確認をする。すると、時刻はすでに午後になっており、午後一の授業は教室移動が必要な化学だった。それを教えようとしていた彼女の言葉を眠って無視していたから叩かれたのだと理解する。理解しても叩かれた理不尽は拭いきれなかったが。
ここは軍が運営する学園。ある日のこと、世界は”エーオラ”の発生により危機的状況に陥った。エーオラは生命体に寄生し、変質化させる寄生生命体で、初めは植物を支配していった。やがて動物へと寄生先を変え、最後は人までも寄生対象へ変わった。寄生された動植物は化物へと代わり、生きているものを例外なく襲うようになる。
その襲撃から逃れた人類は3つの軍事学園を作り、それぞれの方法で”エーオラ”を撃退する方法を編み出した。
3つの軍事学園のうちのひとつである東の軍事学園”大東亜連合国”だ。ここでは魔法少女と呼ばれる軍事的武力が主流として扱われる。特殊金属で作られた”デスパラード”と呼ばれるチャームを使い、武装を召喚する。それを使用して”エーオラ”と対峙する。問題があるとすれば”デスパラード”を利用することができるものは10代の女子だけということ。また、10代の女子の中でも適性のあるものしか扱うことができないことである。
亜希はその適性がある”群青の魔法少女”と呼ばれ、世界を救う権利を持つ。撃破数100を超える天才魔法少女でもある。
「移動教室。遅れるよ?」
「わかってるよ」
幼い時からの知り合いである彼女が世界を救う。誇らしさよりも心配をしてしまう。戦いが終わった後の彼女はいつも誰よりも傷ついている。少女の体に生傷が増えていくのを見ていると、いつか目の前からいなくなってしまうのではないかと心配になってしまうのだ。
だからと言って、男である僕に戦う術はない。彼女がどれだけ傷ついても守ってあげられる方法が僕にはない。それがもどかしい。いつでも笑っていた彼女が、今では無理に笑っているように思える。
「早く行くよ、龍樹」
「ああ」
仕方ないのだ。世界は彼女たちがいなければとっくに終わっていた。僕が生きているのは彼女たちのおかげなのだ。だから僕は今日も彼女の後ろを歩いている。彼女の首元にある傷を眺めながら。
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