第13話 空いている


これは友達に聞いた話で、昔住んでいた団地のマンションの話だ。

そのマンションは沢山ある団地マンションの一つで、その友達は、その一室に両親と数年間住んでいたらしい。

当時は車の所有率が今より高く、その団地の人達もだいたい人家族一台が当たり前だったせいで、団地の前の広場は部屋番号がコンクリートに大きく書かれた駐車場だったそう。


そんな駐車場は、友達が住んでいた10階から見下ろせて、どこの部屋の車がないか分かる仕様になっていて、「今、あの部屋の家族は外出中だな。」とか一目で分かった。

今考えると、防犯上どうなの?と友達は話してくれた当初話す。


「便利は便利だったけどな。団地にいる友達を遊びに誘おうと思った時、家にいるかいないか分かったからさ。」


そうケラケラ笑う友達は、その後表情を引き締めて話を続けた。


「でな、ある日曜の日、たまたま仲良しの団地の子達が家族で出かけちまった日、ボンヤリと駐車場を見おろしてたんだよ。

そしたらコンクリートに部屋番号が書かれているんだけど、よく使うからか、文字が全部薄汚れてたり一部消えたりしてるわけ。

なのに、一つだけまったく汚れてないし欠けてもない駐車場が見えたんだ。」


「へぇ?それって……使ってないって事?」


友達は「そう思うしかない綺麗さだった。」と言い、首を軽く傾げる。


「でもさ、どの団地も満員だったし、引っ越しても間を空けずに直ぐに新しい住人が入ってきてたんだよ。

だから、そんなに綺麗なままなんて、違和感しかなくてさ、覚えちゃったんだよね〜。

『612号室』。」


612号室、そこがその駐車場の所有者だったようだ。

友達は気にはなったが、その日は何もせずに部屋の中で過ごした。


それからも思い出した時にその駐車場を見ては、綺麗なままの駐車場を見て多少の違和感を感じた友達は、ある日両親に尋ねたらしい。


『612号室って誰か住んでるの?』と。


すると両親は揃って『さぁ?』と返し、母親の方は「住んでるとは思うけど、車を持ってないだけじゃない?」と言う。

確かに、その可能性は大だし、その時は友達もその通りかと思って会話は終わったが、やはり気になる……。


「そうだ!今度その部屋に他の友達も連れて行ってみよう!」


そう思いついた友達は、同じ団地に住む友達達にその事を話してみる事にした。


「あ〜あの612の駐車場ね!確かに車停まってるの見たことない。


「そういえば、僕も見たことないな。」


一言話せば、皆気になってはいたのか、話に食いついてくる。

そのため、皆で相談した結果、612号室に行ってみよう!ということになったそうだ。


エレベーターに乗り込み、友達が6のボタンを押すと、皆ワクワクしながらその階に着くのを待つ。

そしてついた後は、ゆっくりと進んでいき────ドアの前に立った。


ドアの横には大きめの窓があり、大抵の家庭はそこにカーテンをつけるのだが、606号室にはそれがなかった。

なので、薄ぼやけたすりガラスからはボンヤリと中の様子が見える。


「……誰も住んでないっぽいね。」


一人の女の子がそう言うと、全員がガッカリした様に大きく肩を落とす。


「誰も住んでいないから綺麗なままって事か〜。」


「ドキドキして損しちゃった!鬼ごっこして遊ぼう。」


皆はすっかり飽きた様子でエレベーターへと向かってしまったが、友達はやはり違和感を感じた様だ。


その部屋は一番角の部屋で、いわゆる一番人気の部屋。

そこにこんなに長く人が入ってないなんてあるのかな?────と。


しかし、子供の身ではこれ以上調べる事も出来ずに、友達は忘れることにした。

それからまた少し経った頃。

風邪を引いて学校を休んだ友達が、退屈を紛らわせるため、駐車場を見下ろすと──……。


「あ、あれ……??」


なんとその日は612号室の駐車場に1台の車が停まっていたのだ。

全体的に長くて黒い車で、金色の飾りが付いている妙な車だった。


当時全く知らなかったため、お金持ちの車だと友達は思ったらしかったが、それは紛れもない霊柩車で……つまり、死んだ人を乗せる車だったのだ。


「凄い車が停まってる!」


友達は興奮した様に誰かに知らせようと思ったが、両親は仕事。

友達はまだ学校から帰ってないため、無理。

そのため、友達はいつの間にか寝てしまったそうだ。


そして起きると既に夜で、「ご飯よ〜。」という母親の声で目が覚めた。

慌てて駐車場を見に行ったが、もう既にそこに霊柩車はなかったようだ。

「あのさ!昼間にあそこ、凄い車が停まってたんだせ!」

そう言ったが、「ハイハイ。」と流されてしまい、結局詳細は分からないまま、父親の転勤によりそこを引っ越すことになったとのことだった。


「結局なんだったんだろうな?その霊柩車……。

団地の中で誰か死んで、たまたまそこが空いてたから少しの間停めさせて貰った…とか?」


「いやいや、そんなはずはないよ。

流石に団地内で誰か死んだら、その話は耳に入るから。

母親に聞いても、そんな話なかったって言ってたし。」


二人揃って考え込みながら、気まぐれにその団地が今、どうなっているのか、ネットで調べてみた。


すると、団地は老朽化のため破棄されていた様だが、もう一つ妙な書き込みを見つけて血の気が引く。


『地元の有名な幽霊スポット!〇〇団地マンションの怪談!』


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