第25話 特級魔術試験(2)
そうしてその日の特級魔術の実技試験は想定外に長丁場となったため、オリジナル術式の発表は明日にすることになったと告げられた。オリジナル術式の発表は、特許等の関係上、各個別に魔法協会会長と審査員数名の前で結界を張った部屋で行われると説明があった。
「ギルとクリスは、明日は行かないんだろ?クリスに渡したい物があるから、明日の発表が終わったらグリモード家にお邪魔するよ」
「ガイ様、渡したい物って?」
3人は、魔法協会の廊下を話しながら歩いていると、前からレイが手を振って向かってきた。
「みんなお疲れ様。試験は楽しめたかい?」
「「師匠!」」 「レイ様!」
「話は会長に聞いたよ。会長は久しぶりに興奮した試験だったって喜んでたよ」
三人は苦笑いしながらお互いの顔を見合った。
「ガイ、会長から明日のお前の発表に俺も審査員として立ち合うように言われたんだが……」
ガイは、真剣な表情で頷いた。
「はい、師匠にも見てもらって意見を頂きたいんです」
♢*♢*♢*♢*♢*
次の日、ガイが魔法協会のオリジナル術式の発表会場で、目を瞑り腕を組んで審査員を待っていると、ガヤガヤと魔法協会会長とレイを含む審査員が部屋に入ってきた。
「待たせてすまんの。早速じゃが、君の術式を見せてくれるか。『時空間の狭間で張る結界』だったな」
レイは、「えっ!」とガイを見ると「作っちゃいましたよ、師匠」とニカッと笑った。
「はい。以前、時空間の歪みに亀裂を作って穴を開けるという術式を組んだ魔術師の話を聞いて、私もその術式を組み立ててみました。そして穴を開けて、その穴もすぐに閉じることなく、安定して数分はそのまま維持することが出来るように術式を改良しました」
「なんと!」
「時空の歪みに人が入り込んでしまった場合どうなるか仮説を立てたのですが、私達の体はこの世界で生存できるよう最適化されているため、時空の狭間では色々な要因によって物理的な存在は保てない可能性があります。なので、時空間の狭間に入った場合でも人が物理的に生存出来るような防護服のような結界を纏う術式を作り上げました。これは時空間の狭間に限定されるものではなく、深海・業火・雷散・高圧力・高重力の中で使用可能です」
「なんと!」
ガイは驚いている会長を横目に、術式を組み込んだ腕輪を手首にはめた。
「術式はこの腕輪に組み込みました。この術式は腕輪を付けた生物に必要な環境を結界の中に作り出すことが出来ます。たとえば、水中では酸素や空気圧をその生物に合った数値に調整してくれます」
「ガイ……」
ガイはレイと目が合うと、サムズアップしながらウィンクした。そしてガイは、それから3時間以上も会長と審査員の質問攻めに合うことになった……。
ガイとレイは魔法協会での発表が終わると、すぐにグリモード家で待っていたクリス達のもとに転移してきた。ノアがガイ達が屋敷に到着したと伝えに来ると、クリスティーナとギルバートは部屋を飛び出て階段を駆け降り、2人が待つ談話室に駆け込んだ。
「ガイ!どうだった?」「ガイ様、発表は無事に終わりましたか!」
セバスが「ゴホンッ!」と咳払いすると、「「あっ……」」とクリスティーナはギルバートと目配せしながらぎこちなくカーテシーで挨拶をした。
皆がソファに座ると、ガイがクリスティーナとレイの前に腕輪の入っている箱を差し出した。
「発表は上手くいったよ。そしてこれが今回作った結界の魔道具。どんな環境下でも、結界の中は生存可能な状況を作ってくれる」
ギルバートは腕輪を見ながら「どんな環境下でもって、時空間の狭間でもってことか?」と、ガイに直球で質問した。
「うん、仮説上では大丈夫なはず。深海・業火・雷散・高圧力・高重力の中で何度も動作確認してみた。使えたよ、一応この世界ではね。それで、ギルにお願いがあるんだ」
「んっ?お願いってなんだ?」
「俺達が魔の森で魔法訓練することになった時、師匠から転移の魔道具についている魔石に日々魔力を貯めておくようにいわれて、俺達ずっと転移の魔道具を首から下げてるだろ。魔石に魔力を貯めているけどその魔石の魔力は全く使ってないからもの凄い量の魔力が貯まってっていると思うんだ。この魔道具は作動する際に大量の魔力を要するからその魔石をこの魔道具に取り付けたくて……ギル、譲ってくれないか?」
「なんだそんなことかよ。俺とガイの魔石をこの2つの腕輪に取り付けるんだな」
そう言うと、ギルバートは首に掛けていたネックレスを外して、魔道具についていた魔石を外した。
「お兄様、魔石が濃いグリーンになって魔石から魔力が溢れていますわ。ギル様のも魔石がほのかに紅い金色になってます」
魔石を2つの腕輪に取り付け、ガイはその腕輪をクリスティーナとレイに渡した。
「師匠、クリス、これを常に身に着けておいて。これは俺から二人への婚約祝い」
レイは、クリスティーナの誕生日の日に彼女から告白を受けた後、クリスティーナの魔力が込められた指輪を常に身に着けるようになった。そして周りの者には、二人の距離が近くなったような、関係性が少しづつ変わりつつあるように見えた。
「ガイ、ようやく失恋を乗り越えたんだなぁ」とギルバートが感心して頷いていたが、全員が冷たい目でギルバートを見ていたことに、今回も彼は気が付かないのであった。
♢*♢*♢*♢*♢*
特級魔術試験から1週間が経った頃、グリモード家に魔法協会から特級魔術試験の合格通知が届いた。
父の執務室で合格通知を受け取った二人は、力が抜けたように感無量でソファへ座り込んだ。
「ようやく特級魔術師になれましたわ……」
「あぁ、俺もハバネロの改良には苦労したからなぁ。まさか実技試験であれを使うとは思わなかったよ~」
(((((あれ、結構簡単に作ってなかったか?))))) その場にいた全員が同じことを考えていた。
その日の夕食は、レイとガイを招待して、特級魔術試験合格のお祝いをすることになった。
「ガイ様、ギル、クリス、特級魔術試験の合格おめでとう。そしてレイ様、子供たちをここまで導いていただき本当にありがとうございます」
グリモード男爵は立ち上がり3人にお祝いを述べ、そしてレイに深々と頭を下げた。
「ウィリアム殿、私からも貴殿に感謝を述べたい」
二人は見つめ合うと、ガシっと抱き合って男泣きしていた。
(((えぇっ~!)))
3人は父とレイが繰り返し乾杯している姿を横目に、これからのことについて話をしていた。
「ところで、クリスはこれからどうするの?ギルは、魔道具研究所で新チームのリーダーになるって聞いたけど……」
クリスは手に持っていたカトラリーを置くと、ガイとギルバートに向き直った。
「国王様から、改革後に首相になるレイ様の補佐官をしないかってお誘いされたの。貴族制度の廃止は来年から施行されるけど、王政廃止はそれが落ち着いた5年後って言ってたから、それまでは宰相とレイ様の補佐官として王宮で働くつもり」
「そうか、結婚はいつ頃するつもりなの?」
ガイの質問に、クリスティーナはう~んと首を傾げて考え込んでしまった。
(私、結婚とか、すっかり忘れてたわ。サヴィル侯爵と魔術師の件が解決してからじゃないと……)
「そういえば、ギル兄様はローラ様との結婚はいつ頃にする予定ですか?」
「ローラ嬢がデビュタント迎えた翌年に結婚をしようと伝えてある。結婚の準備は、年末のデビュタントが終わってからかな」
ガーラ国では、女性は16歳で社交界でのお披露目となるデビュタントに参加し、男性は18歳で成人の儀を行うことになっていた。
「ギルが20歳でローラ嬢が17歳で婚姻。そして、魔道具研究所の仕事とノーサンプトン家の仕事の両立か……」
「ノーサンプトン家は魔石の産出量がこの国で一番多いからね。魔石オタクの俺としては、少し楽しみなわけよ」
(そういえば、ダリオン国の屋敷にいたころは、兄様の部屋は石ころだらけでしたわね……。懐かしいですわね……)
「そういうガイは、これからどうするんだ?」
「当分は義父の仕事の補佐をする予定ではあるんだけど、曾祖父から番を探しに向こうに来いと急かされてるんだ」
「そうでしたわね!ガイ様も今年成人ですし、早めに番様を見つけに行った方がいいんじゃないでしょうか?」
うんうんと前のめりに頷きながら圧をかけるクリスティーナとギルバートに、引き気味のガイであった。
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