16:連撃

ソーレンが狙いを定めた瞬間、クロウはわずかに身を滑らせた。

まるで撃たせる場所を見透かしていたかのように。


「っ!!!」

「ほら、撃ってこいよ?」


クロウの肩越しにミラと目が合う。

この位置から撃てば彼女たちに当たってしまうかもしれない。


クロウはニヤリと嗤うと躊躇なくソーレンに向かって発砲する。

慌てて横に飛び退き構えるが、今度はルシアンたちが背後にくるように一歩ずれている。


「ほら!来いよ!」


距離を詰めようとするソーレンにもう一発銃声が響く。

寸でのところで避けるが反撃ができない。

焦れったさにソーレンの顔が歪み、喉がぐるると鳴る。いかにも愉しそうにクロウは狙いを定める。

先ほどの二発はただの遊び。狩りの前に獲物をいたぶるようなものだ。


クロウは普段、仕事に遊びを持ち込まない。

しかし数ヶ月前ソーレンに折られた腕を思い出すと少しばかりいたぶってやりたくなったのだ。この男に勝利したいという思いがほんの少しクロウの注意力を鈍らせていた。


そろそろ終わらせよう⋯⋯そう照準を合わせた瞬間だった。





空気の揺れを読んだかのように、イーライが動いた。

ライオットシールドを構え、床を蹴る。

金属と革靴が擦れる音が一瞬だけ響き、次の瞬間には一直線に走り出していた。



「ソリ!!!!」



その声を聞くより早く、ソーレンの身体はもう動いていた。

――来る。

イーライが道を開ける。

それを理解するより先に、全身が反応していた。

銃を前方へ放り捨て、床に当たる乾いた金属音が響いた瞬間――彼の足が地を蹴っていた。


クロウが気配を察し、反射的に声の方へ銃を放つ。


しかし弾丸はイーライの盾に受け止められた。

弾丸が当たった瞬間、盾の内側に白い閃光が走った。

ポリカーボネートが軋み、蜘蛛の巣のような亀裂が一気に広がる。


クロウの視線がそちらに奪われた刹那、

彼の背後――すでにソーレンが跳び込んでいた。

すぐさま銃を構え直そうとするが、間に合わず無防備になった脇腹をソーレンの膝が抉る。


「ぐぅっ」


クロウは体勢を崩したものの、すぐに横へ飛び退き肘鉄を返してくる。

それでもソーレンは追撃の手を緩めない。

じりじりとクロウを壁際へ追い詰めていく。



イーライはヒビの入った盾をヴィンセントに渡し、ソーレンの投げた銃を拾い上げる。

引き金に指をかけながらも、あまりの戦闘の激しさに助けに入ることはできない。

ルシアンもヴィンセントの左肩に手をかけながらその様子を見守ることしか出来ないでいる。


荒い呼吸と互いの打撃音だけがホールに響いた。

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