第3話:てしてし帳簿監査と読み聞かせ講座
ついに、ミツルはつかまり立ちを覚えた。
よちよちと揺れながらも、机の上に広げられた帳簿を覗き込むことができるようになったのである。
「……ほうほう……これが、父上の帳簿か。」
父親は領主として毎日大量の書類を処理している。
その中には収支の記録も多い。
小さな体を揺らしながら、ミツルはじっとその数字を見つめた。
(なるほどな……教会へのお布施が、バカ高い……。)
紙の上を、小さな指がてしてしと動く。
と、ふと気づいた。
(……むむ! この支出……これもこれも……中抜きされてんじゃん! ダメだよ、ちゃんと見ないと!)
ミツルは思わず「てし、てし!」と机を叩いたが、当然まだ言葉にならない。
父は「おお、元気だな」と笑って彼を抱き上げただけだ。
「うあー! あばばば!」 (違う違う!そうじゃない!俺が言いたいのは――!)
だが伝わるはずもない。小さな拳を握りしめながら、ミツルは胸の内で強く誓った。
(……大きくなったら、絶対この帳簿、見直してやる……!)
◆◆◆
そんな日々の中で、時折使用人たちが彼に本を読み聞かせてくれるようになった。
「坊ちゃま、今日は魔道書の一節をお聞かせしますね。」
「こちらは歴史書でございます。お楽しみくださいませ。」
幼子に魔道書や歴史書を読み聞かせるなんて、どんな教育方針だと突っ込みたくなったが、貴族の家では常識なのだろう。
(いやいや、こんなの子供にわかるわけないだろ!)
そう思いつつも、彼は一言一句を聞き漏らすまいと耳を澄ませる。
魔法の詠唱や理論は、頭の中で何度も組み合わせては反芻した。
実際、簡単な魔法ならもう発動できるようになっている。
ある夜、彼はベビーベッドの中で小さな火花を指先に灯しては消すことを繰り返していた。
「ふぅ……まあまあ、いけるな。」
また別の日、歴史書から聞きかじった地名や人物を思い出す。
王国、騎士、領地、戦争……どうやらこの世界の歴史は中世ヨーロッパ風らしい。
「へぇ……なるほどな。」
まだ小さな彼にとって、それらはすべて遠い世界の話のように思える。
だが確実に、頭の奥では何かが積み重なっていった。
(……よし、良い感じにごまかしながら、今日も能力開発にいそしむぜ!)
そうして、夜更け。ベビーベッドの中でにやりと笑い、ミツルは再び小さな魔法を試すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます