お貴族さま+α

第1話:おぎゃあから始まる貴族ライフ

――まぶしい。


まぶたの裏から透けてくる光に、ミツルは思わず目を開けた。


目に飛び込んできたのは、木の梁と白い天蓋、そしてやけに粗い布で覆われた柵だった。


あれ?ベビーベッド?


そして、目の前の自分の手が、小さくてぷくぷくしていることに気が付いた。


「……え、うそ。俺、赤ちゃん?」


前世の記憶ははっきりとしていた。


仕事帰りにコンビニ弁当を片手にゲーム動画を見て、つい寝落ちして――それっきりだったはず。


なのに今、彼は泣き声しか出ない小さな体に閉じ込められていた。


しばし呆然としていたが、次の瞬間、頭の中で鈍く弾けたように思い出す。


あのとき願ったのだ。


「生まれ変わったら金持ちになって豪遊したい!」と。


「……転生?いや、マジで?」


そのとき、視界の端に現れた女性の顔。


柔らかな金髪に宝石のような青い瞳、貴族然とした衣装。


「まあ、ミツル様……いえ、ミツル坊ちゃま。目をお開けになりましたのね。」


お、お坊ちゃま? 耳を疑った。


さらに、彼女の後ろに控える使用人たちが一斉に頭を垂れる。


「ご誕生、誠におめでとうございます、ミツル・マクガフィン様。」


 ――マクガフィン?なんだその貴族っぽい苗字は。


胸が高鳴る。俺、貴族?これ、勝ち組人生?前世の俺、よくやった!


だが、彼の喜びは束の間だった。


◆◆◆


数ヶ月後。乳母の腕の中で眠りながら、ミツルはふと目を覚ました。


屋敷の中で聞こえてくるのは、帳簿をめくる音と、低く重い嘆息。


「……今年も教会へのお布施で赤字ですわね。」


「税の徴収はこれ以上は無理だ。領民が干上がる。」


――え?何この会話?


領主っぽい男性と、母親らしい女性が深刻そうに話しているのが聞こえてくる。


あれ?豪遊?赤字?おいおい待て待て待て。


(……なんでこんな、カツカツなの!?)


寝返りを打ちながら、彼は心の中で叫んだ。


前世の夢、バラ色の貴族ライフが、崩れ落ちていく音がした。


だが、諦めるつもりはない。


だって、彼には――


「スキル、【プラスアルファ】……あるんだよな?」


ふと意識を集中すると、頭の中にステータス画面のようなものが浮かび上がる。


名前:ミツル・マクガフィン

職業:貴族の長男

スキル:【プラスアルファ】

所持品:タオル(×1)


(タオル1枚じゃ意味ねえ!)


けれど、説明欄をスクロールするように意識を向けると、確かにそこにはこう書かれていた。


『同じ物を複数所持することで、その威力や効果を増幅させることができる。』


「……これ、うまく使えば……?」


胸の奥で、小さな野心が芽吹く。


赤ん坊のくせににやりと笑って、ミツルは誓った。


「絶対、稼いでやるからな……豪遊してやるからな……。」


異世界の夜、ゆりかごの中で、彼の小さな決意が静かに燃え上がった――。

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