どんろっと!〜たしかにここにはイケメンが揃ってるが全員ネジが外れた奴らだぞ!?〜

兎木ハルカ🐰

4・5月

1.文(は全く書かずに)芸(に走ってる)部

「部長、俺BLになりたいんすよ」

「BLは職業じゃないよ」


 午後のうららかな日差し。校内に響く吹奏楽部の音色。

 文芸部の部室で小説を読んでいた久野紫苑くのしおんは顔を上げずに返事をした。


「子供の頃から夢だったんすよ」


 自分から久野に声をかけたはずの後輩が返事を無視して続ける。


「え? もしかしてBLバックレフトの話してる? バレー部に転部しますとかそういう話?」

「イケメンにちやほやされたいんすよ」

「僕の知ってるBLボーイズラブだ……」


 つい文庫本から顔を上げてしまった久野はふざけた発言を続けている後輩、三上みかみの方へ少し身を乗り出す。


 オレンジ色のパーカーに、意味のない位置についたヘアピン。独自のオシャレを追求している三上の顔は、一般的にイケメンと呼ばれる部類に入りそうだが。


「幼稚園の頃からの夢で」

「ずいぶん早熟な幼稚園生だったようだね」

「イケメンの先生が俺をひいきしてくれてて」

「あぁ」

「顔の良い男にチヤホヤされたいんすよ、俺、BLになりたいんすよ」


 そこまで言って、三上は満足した様子で口を閉じた。


「……え? で何?」

 もはや文庫本を閉じてしまった久野が当然の疑問を零す。


「部誌でBLを書きたいってこと? それともすこぶる特殊な告白? 何? どっち?」

「どっちでもないです」

「どっちでもないことある?」


 たじろいだ久野のメガネチェーンがチャリ、と音を立てる。

 三上は窓から差し込む陽光を横顔に宿し、どことなく物憂げで真剣な顔をして。


「文芸部に入ったのは純粋に部長の顔目当てだったんすよ、すげえ好みのイケメンいるって思って……『絶対入部しないでください』って部活動勧誘会でデメリットのパワポ見せられた時は若干引きましたけど」

「うん。あれでもう誰も入ってこないと思ってたのに三上が入部してきて僕も引いたけどね」


 久野は丸眼鏡の奥にあるピンクの瞳をしたタレ目を細める。

 三上が『好みのイケメン』と評したように、彼の顔は整っていたが。


「最初はイケメンの先輩一人ゲットくらいに思ってたんすけど、部長ってほら、自由じゃないすか。今も部室半分改造してネカフェみたいにしてるし」

「これは今のマイブームだからね、去年はバロック建築を真似してた。ヴェルサイユを再現したくて」

「だからネカフェの天井に宗教画が描かれてるんすね」

「粗大ゴミに出しそびれたんだ」


 男子高校生二人を大天使が見下ろしている。学校の蛍光灯がかわいそうに見えたのはこれが初めてだと三上は少し備品に同情した。


「そんな自由奔放な部長を見てて思ったんすよ。俺も少し、夢を追いかけて良いのかな、って……」

「それでBLになりたいと」

「はい」

「すごく真っすぐな目だ」


 膠着した二人をよそに、校庭から「ランニングもう1周ー!」と声が響く。

 どうやら外ではまっとうでキラキラした青春が行われているようだった。イレギュラーがウロウロしている文芸部とは大違いである。


「……まあ、決めたなら頑張れば良いんじゃない?」

「あざっす」


 久野は文庫本を再度開いたが、栞をつけるのを忘れていたためどこまで読んだか分からなくなり結局閉じた。


「ところで、BLになるって具体的にどういうこと?」


 かわりに後輩へ話の続きを要求する。


「え? そうっすね、とにかくイケメンにチヤホヤされたくて」

「ビジョンが不明確だよ。目指すならどういう人にアプローチしていくか決めないと」

「どうせなら沢山のイケメンに甘やかされたいです」

「でもLOVEなんだろう? 最終的には一人でしょ」

「いや……もうなんか付き合うとかそういうのじゃなくて。複数人とずっとぬるいイチャつきをしたいんすよ」

「浮気者の発想だ」

「確かにこれBLとは言い難いかもしれないすね。……男版のきららみたいなのが理想なんすけど……」


 三上は少し眉間に皺を寄せ考えて。


「部長、俺pixivコミックになりたいす」

「イラスト部に行け」

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