23:魔法の言葉

 月を進行方向に進んでいくと、船は海を離れ月の引力に引き寄せられ宇宙の海を漂い始め、オールも漕がなくてもよくなった。


『すごい、きれい』


『いやいや、船が浮かんでることを驚けよ......。まあ、ロマンチックではあるよな』


見惚れていると、バサバサとカラスが向かって来て船を揺らす。どうやら、ダンジョンはあの向こうへ来てほしくないようだ。


『ロマンチックな雰囲気が台無しじゃない! えい!』


雷の魔法を使い、群がるカラスたちを蹴散らしてさらに月に近づいていく。すると、吸い込まれていくように私達は瞬く間に、元のトンネルの場所まで辿りついていた。


『ここって、扉だらけのトンネルの場所......?』


『どの扉も開かないぞ』


私達二人は、こつこつと反響する足音に嫌気を差しながら歩いていった。いよいよラストダンジョンが近いと言うことだろうか。トンネルの奥へ奥へと向かうと、そこには大きな両開きの扉があった。私達はそれを二人で同時に押して開けた。

開けると、手前からずらりとろうそくに火がついていく。それは長い道のりを記していた。


「永劫の牢を破りし、覇者よ。呪いを祓い、この輪廻を出たくばこの道をたどるがいい」


声が聞こえた。それは、私達にだけでなく配信を観に来ていた人たちにも聞こえていた。


:なにこの声?

:モンスターの声?

:いや、モンスターって話さないんじゃ?

:じゃあ、なんなんだよ!


『よくわからないけど、面白いことが起きそう!』


『おい、待て! 迂闊だって!』


『大丈夫、何とかなる!』


:それでこそ、つばっちだぜ!

:そうだ、なんとかなるって!


『そのバイタリティ、どこから来るんだ。まったく......』


声の主はまだ見えない。道を進むと、ようやく大きく広いスペースに出た。なにやらボスと対決しそうな舞台だ。私たちが構えていると、声の主が姿を現した。それは、龍だった。


「よくぞ、ここまできた。我が、永劫迷宮の徘徊主【永劫のウロボロス】 我を倒さぬ限り、ここを出ることはできぬ」


『徘徊主!? 始めて聞いたぜ......。 だが響きの限り、徘徊者のリーダーって感じだろうな。 本当になんとかなるってんだろうな?』


『わかんない。でも、二人なら乗り越えられる、でしょ?』


『はぁ、言ってくれる』


私は、鞭を利用してウロボロスの眼に攻撃した。攻撃は当たった感覚があった。だが、ウロボロスはもろともせずに大きな尻尾で私達に襲い掛かる。


『ぐあぁ!?』


『大丈夫か!? つばっち』


『ええ......。でも、相当強いわ。こいつ......』


『なら、おじさんが少し頑張っちゃおうかな......』


そう言って、ナツさんが配信で初めて姿を現した。声だけでという私達で決めたルールを、自分で破るなんて......。でも、その頼ってほしそうな顔を見ると嬉しい。


『おじさん、大丈夫? ブランクあるんじゃないの?』


『大丈夫だ、問題ない。俺は、最強のダンジョン配信者。ドーナツホールだぞ』


そう言って、護身用に持たせていた刀を取り出した。そして、私の方を見つめる。


『つばっち、俺を投げろ!』


『え?』


『いいから、早く!』


ウロボロスの攻撃が近づくその前に、私は鞭を使ってナツさんを言われた通りに、そのウロボロスめがけてフッ飛ばした。思ったより軽かったナツさんは、きれいに放物線を描き、ウロボロスへ近づいていく。そしてそのままウロボロスの首元へ刀をつき刺した。あれはもしかして、逆鱗ってところなんじゃ......!?


「逆鱗に気付くとは、貴様......! だが、振りほどいてやるわ!」


ウロボロスが揺れ動くと同時に、私の立っていた地面が揺れ始めた。大きな揺れに、私が足元をすくわれ、手を付いていると地面が90度にまで回転していた。だが、重力はあるのか、私は地面にいるままだ。恐る恐る立つと、私が立っている地面と同じ大きさと色の地面が次々と現れて万華鏡のように回転している。ウロボロスは、ケタケタと笑いながら、こちらを見つめる。


「これが、永劫の力! そこで一生這いつくばっているといい!」


『俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!』


ナツさんはさらに、ウロボロスの逆鱗に刀を突き刺す。私も彼の元に駆け寄り、加勢しようとした。が、地面の回転が速くなり、想う通りに向こう側へ渡れない。

ナツさんも振りほどかれて、私と同じ地面に落ちてきた。


『ナツさん!』


『俺の心配はすんな! あいつを攻略することに集中しろ! あいつの能力は、眼に宿っているように見えた! 目を狙え!』


彼は私に指輪を渡してきた。それは、飛行の指輪だった。そうか、この影響でさっき私でもナツさんを持ち上げれたのか! なら、私も飛んでいけるはず!


『いっけえ!』


飛行の魔法によってふわふわ浮かぶ私を、ウロボロスは能力で操っているであろう小石を飛ばして邪魔をし始める。私は一度、壁のように反り立つ地面でなりを潜め、新たに地面を蹴り上げて飛び出す。降りかかる小石を踏み台として利用しながらウロボロスに近づいていく。ウロボロスはその光景に目を大きくさせた。しめた、狙いが大きくなって狙いやすくなった。


『私の活躍、ちゃんと見ててよね! みんな!』


:<・><・>

:見てる見てる


鞭はウロボロスの眼に届き、ウロボロスはかなり弱り始めていた。今がチャンスだ! しなやかに唸る鞭をも刃物に変える魔法を取り付け、ウロボロスの傷ついた逆鱗に打ち付ける。ウロボロスはビリビリとこちらを振動させるほどの唸り声を出しながら、消滅していく。地面は元に戻っていき、迷宮の扉は開かれた。


『やっと攻略できた......。 じゃあ、今日の配信はここまでで! みんな、付き合ってくれてありがとう! おつつばでーす』


私は配信の枠を早々に止め、ボロボロの状態でナツさんと二人息を整えながら帰えるのだった。こりゃ、筋肉痛酷いだろうな......。

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