21:徘徊者「永劫迷宮」
『あのミノタウロス、倒してみるか』
『え? 大丈夫なの?』
『ここで大丈夫って言うのが、お前のいいところだろ?』
ここで彼が飛び切りの笑顔を見せるのは、とてもズルいと思う。
私がそんなの見せられて、断ると思うの?
『......。わかったわよ』
鞭を取り出し、向こう側から歩いてくるミノタウロスに立ちはだかり私はその鞭を振り下ろす。バシンと音が鳴る。当たった感触が手に伝わる。だが、ミノタウロスはビクともせずに歩き去り、また消えて行く。なんなんだ、こいつ......。あのミノタウロスは弱点がないの?
『いや、まだ諦めない!』
:がんばえー
:がんばれー
¥5,000:目を狙ってみたら? 三つ目の部分に
『なるほど、眼ね。スパチャサンキュ♪』
もう一度ミノタウロスが来た時、それがお前を倒す合図だ! 私は、また目の前からミノタウロスがくるのを待ちながら、炎の指輪を取り付けた。足音が聞こえ始める。私は改めて鞭を引き締め、狙いを定める。ミノタウロスが、ゆっくりと姿を現す。攻撃するのは、今!
『おりゃあ!』
炎が散り、鞭の先端は狙い通りにミノタウロスの額にある第三の眼に当たる。炎の火種は、第三の眼から引火してミノタウロスがどんどんと火だるまとなっていく。数秒ののち、ミノタウロスは消滅してなにやら鍵のようなものが出てきた。
『倒した、みたいだけど......これなに?』
:次のステージへのカギ?
:なんだこのギミック?
:なにそれ。知らん......。怖......
『俺に聞くな。東京の廃ダンジョンは専門外だ』
『......。とにかく、先に進んでみましょ。なにか変わってるかもだし』
ナツさんは渋い顔をしたが、ここでとどまっていても仕方ないと思ったのか、好きにしろと手をあげた。私はドローンに先行させながら、道なりをまっすぐ進む。すると、いままでになかった階段が見えた。私達が走って階段を駆け上ると、そこには鍵のかかった扉があった。私はミノタウロスからドロップした鍵をその扉の鍵穴に差した。すると、扉は開いた。一歩踏み出すと、そこはトンネルのような光景が広がっていた。両端の壁には扉が数メートルおきに並んでいて、不気味な光景を生み出していた。なにこれ......。 そう思って後ろのナツさんを見ると、彼がこっちに来た瞬間、さっきまで開いていた扉が消えていった。
『え、ウソ!? 戻れないじゃん!!』
『どうやら俺達は、この扉の中から脱出する道を探さないといけないようだな』
『なんでそうなんのよ! 他に道はあるはず。例えば、トンネルを進めば出口があったり......』
:トンネルを抜けて、出口があるならこんなに扉が沢山ある意味なくね?
:この徘徊者の意図がわからん......。気味悪すぎ
コメントの言葉は理解できる。だけど、今の私は見た者しか信じられない。それに、その凝り固まった思考で、見落とすものもあるかもしれない。ここは徹底的に調べるしかない。私は走ってトンネルの奥へと向かう。十数メートルくらい走ると、壁が見えて来た。ドローンの明かりでこれほど明るく照らされて、絶望したことはなかった。壁はこちらに迫ることもなく、ただ佇んでいる。動くわけもなく、私はまたナツさんの待つところまで戻ってきた。
『何もなかったろ?』
『......。脱出の道、探すしかないみたいね』
:どのドアに入る?
:どこからでもいいのか? それとも順番が?
:わからんし、とりあえず端から順番じゃないか?
『そうね。適当に入っても、どこに入ったか分かんなくなるかもしれんし。向かいのドアから入ってみるか』
私達は新たに扉に手をかけた。あっけなく扉は開き、その先は駐車場のようになっていた。ただ、車が止まっておらず鮫のようなフォルムの何かが数匹、駐車スペースに収まっていた。
『な、なんでサメ?』
『なんにせよ、次なる徘徊者の試練ってことだろうな』
駐車場の地面は踏むごとに波紋を出すほどに水が張られていた。波紋は、走る度強くなる。その波紋がサメに当たると、サメはその波紋の方に向かってビュンと泳いでくる。
『ま、まずい!』
大きな口を開けて襲い掛かるサメを飛び上がって回避しながら、その姿を捉える。あのサメ、眼がない?
:目がない??
:ヒェッ......。
『波紋を大きくするな! またあのサメがやってくるぞ!』
『わかってんのよ! その理屈はっ!』
サメは目が見えない。その代わりに、侵入者の足音。正確にいうと歩いたときの波紋で位置を読み取る。ていうか、ほとんど体が水からはみ出てんのになんで生きてるのよ、あのサメは......! それで、これはどこに向かえばいいの?
:奥の方に、光が見える
:光の方に何かあるのは、ゲームの鉄則
:それはゲームの話だろ。今はダンジョン攻略だよ
『だとしても、その光の方に行ってみるしかないよね?』
『そうだろうな』
私達はコメントの言う、奥でほんのり光る緑色の何かの方へ向かう。多分、あの大きさや、天井側についていることから非常口だと思う。ジャバジャバと言う音が聞こえ始める。サメたちが私たちを追いかけ始めて来た。
:やばいやばいやばい!!
:壁!!
『へ? 壁? ウエッ!? サメが壁を泳いでる!?』
跳ね泳ぐその姿はイルカみたいだけど、全然かわいくないんですけど!?
とにかく、ここはあの非常口にたどり着かなくちゃ!!
『なんだあれは!?』
非常口の看板の近くには、ポータルが奥の壁に広がっている。私達はその中に逃げ込むように入っていった。
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