16:都市伝説ブロガー再び!

 今日はその魔原石の鑑定と、武器の買い替えで近くのギルドに来ている。通常のダンジョンに一つはあるギルド。ここでは、ダンジョンで必要な装備や武器の売買。ドロップアイテムの交換を行ってくれる。ただ、問題は廃ダンジョンのアイテムは交換できるのかってところだ。


「こんにちは~」


「いらっしゃいませ」


受付嬢が笑顔で出迎える。いつも通り、ギルドは賑わっている。さて、3つほど持ってきた魔原石を、鑑定というとどうなるか。


「鑑定をお願いします」


「......!? し、承知しました......。 少々お待ちください」


受付嬢の顔は青ざめていた。レアアイテムがゴロゴロとなだれ込む光景に驚いたんだろうな。

彼女は石を預かり、そのまま裏口に消えていった。すると、彼女と入れ替わりに石を持って強面で高身長な男性がグラサンごしに睨みつけてくる。


「お姉さん、遺留品は遺失物センターに行ってもらわんと困りますわ」


この人たち、私の事盗品売りだと思ってる? しかも、私に恥をかかせるかのように大声でここにいる人に聞こえるように......。勝手に決めつけないでよ。


「いや、これは正式なドロップアイテムで」


「そんなんアイテムに書いてあらへんねんから口だけではなんとでも言えますわ。ちょっと、これはウチから遺失物センターに連絡してもらいますんで、これはあずかりますね」


は? なんでよ。

これ、もしかして転売する気じゃ......。


「うわー、本当にあるんですね! 遺失物取引! 都市伝説とばっかり!!」


私達の間に、いつの間にか男の人が割って入ってきた。私と同い年くらいの塩顔イケメン。ただ、この人どこかで見たことあるような......。


「なんやお前。邪魔せんとってもらえます?」


「なんやお前って。都市伝説ブログ『カタリ』の小島ですよ。それで、この品物は遺失物だという根拠は?」


小島? もしかして、あの廃ダンジョンの一覧をアップしてた人? 小島よる? 

そう言えば、万博の時に一回会ってた! この人。


「はぁ? そんなもん」


「高額アイテムを複数個、女性探索者がドロップするわけがないと? それは、あなたの偏見では? それこそ、証拠ないですよね? あなたは、この人に嘘で罪を被せ、あげく自分の利益にしようとする。それこそ、犯罪で取り締まられるべきでは?」


「チッ、うるせーな......。じゃあ、どう証明する!」


「君、たしか配信者だったよね?」


「は、はい! あ、じゃあドロップしたときの動画が残ってるんで、それを証拠にしてもらえませんか?」


「動画ぁ!? そんなの、AIで」


「あ、ちなみに配信ですよ。生配信。どうやって、加工するんでしょうかね」


「おやおや、ボロがでることでること。これは、大人しく身を引いた方があなたのためでは? あなただって、このギルドの悪評をこれ以上広めたくないでしょうに。闇取引屋の黒井さん」


「ぐっ......!」


グラサンの男こと、黒井さんと呼ばれた人は、それ以上なにも言及せずに裏口へと消えていった。鑑定はその後、スムーズに済み無事に換金もできた。手に入れてなかった風の指輪も手に入ってホッと一息ついた。


「大変だったね。じゃあ、また」


「ありがとうございます! 小島さん、あの万博のときも......。ありがとうございます!」


「え? ああ、あのときの......。ひさしぶりだね。もしかして君も武器の買い替え?」


「そ、そうです」


なんでわかったんだろう。まあ、そういうタイミングでしかギルドにこないしな......。にしても、また助けられてしまったな。


「奇遇だね。よければ一緒に見る?」


「ええ、別に構いませんけど」


そう言うと、彼は微笑み嬉しそうに武器屋へ向かう。彼のしぐさは、なんというか子供っぽくであどけなさがあるけど、可愛がられるだろうなという印象だ。


「そういえば、疑問なんだけどなんで鞭を使ってるの?」


「これは、なんとなく面白いかなぁと思って。一つのアイデンティティみたいな?」


「確かに。それは必要だね。じゃあ、これはどうかな?」


鞭の中でも、競馬で使われるようなしなる棒状のものを持ってきた。私が使ってるのってそういうタイプじゃないんだよなぁ。


「私のは、もっと長めの革タイプで......」


「じゃあ、これは?」


渡してきたのは、私の望んだ革タイプではあるんだけど、まさかの本革。値段はなんと4万! ただ、いつも買っていたものと違うのは一目瞭然。しなりも、強靭性も段違いだ。ただ、持ち合わせが......。予算金額は、さっきの換金で工面した1万と元々あった5千。元々5千で足りていたのよ、いつも買っている金額だったから。


「た、高いわよ......。いい武器なのは間違いないけど」


「廃ダンジョンで配信するなら、これくらいの買い物はしておいたほうがいいよ。じゃあ、出会いの記念に僕が譲りますよ」


そう言って、彼は財布を出し始めた。いやいや、助けてもらった上に買い物まで......。そんなの、よくないし、むしろ気味が悪い。どうしてそこまでよくしようと思うんだろうか。


「いやいや、大丈夫ですって。いつも買っているものがあるので、それでいいんですよ!」


「いいの。僕が買ってあげたいんだ」


それだと、ずっとこの人に借りを作りっぱなしだ。


「じゃ、じゃあ、あなたにも何かお礼を......」


「いいんだ。僕は、廃ダンジョンというジャンルを人気にしてくれているだけで感謝しているんだ。これからも頑張ってね。応援してる」


そう言うと、彼は買った鞭を渡してきた。


「あ、ありがとうございます......」


「これからも、配信頑張ってね」


その笑顔は、純真さからくるものなのか、腹に何か据えたものなのか、私にはわからなかった。この人、奇妙な人だ......。






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