12:生き抜きたくば、喰らえ!
昨日の配信はとてもじゃないが、話も途中からだったし見れたもんじゃなかった。それでも、取れ高も再生回数も十分だけど......。ただ、今日こそはしっかりとした配信にしないと......。今日は、なにしようかな......。トレンドを検索すると、徘徊者は食せるのかという議論になっていた。モンスターで調理するいわゆる「モン飯料理」はダンジョン配信でも一定の需要があるから気になるのは理解できる……。味もそこそこだという噂もある。まあ、私はゲテモノには挑戦したくなくてやらなかったけど......。そもそも、通常武器だとモンスターから肉とかそういう食材としてドロップされる確率が結構低いって聞くし。
「でも、誰もやってないならやってみてもいいかな」
こういうときほど、意外においしかったりするし......。まあ、なんとかるだろうと私は今日も廃ダンジョンに赴く。すると、珍しくドーナツホールが外で待っていた。
「や、おじさん。今日からよろしくね」
「馴れ馴れしくすんな。別にお前の全部を信用してるわけじゃないからな。外に出る勇気をくれたのは感謝しているし、助けてくれたことも感謝してる。だから、これは俺なりのケジメと恩返しだ。今日は、俺がここを案内してやる」
これは、多分ツンデレってやつね!
ここはひとつ、大人の余裕ってのを見せないとね。
「はいはい、わかってますって。じゃあ、早速配信始めましょう!」
他の配信者など目もくれず、私たちはすぐにダンジョンの中に入っていった。なんだか、もう見慣れてきちゃったかもな......。危険が多いダンジョンとは思えない緊張感のない配信になっちゃいそう。
「じゃ、ドローンちゃん今日もよろしく! 私メインで映してね。あのおじさんは映さなくていいから」
「にしても、音声で機動するなんてすげーな。俺の時代じゃ、カメラマンは必須だったぜ?」
「いつまでノスタルジーに浸ってんの、おじさん。じゃあ、配信始めるから。おじ......ナツさんは案内よろしく」
「ナツさん?」
「おじさんとどっちがいい?」
「……」
口喧嘩もほどほどにして、私達は奥に進んでいく。この前の階段の他に、他のフロアへ行く道はあるのだろうか。いろいろ知りたいところだ。
『ここの構造ってどうなってんの?』
『地上3階、地下不明って感じだな。今探索している範囲では地下は5階だ。それより深くある可能性はあるが、深淵に近いほど、正気度は減るから初めは行かない方がいい』
『ああ、なんか狂っちゃうってこと? それ、万博ダンジョンで体験したかも』
『お前、あそこに行ったんか!? よく生きて帰ってこれたなぁwww』
彼の見せる皮肉な笑みが、配信に乗っかる。それだけで嬉しい。さて、今日はダンジョンの全貌を知りたいっていうのもあるけど、まずは料理のことかな。コメント欄もそのことばっかり気にしてるのばっかりだなぁ
:徘徊者ってうめえのか?
:オークはブタの見た目通り豚肉っぽいって聞いたことあるが
:いや、ダンジョンのモンスター基本雑食だろ? 雑食動物はまずい定期
『わかった、わかってるって......。 あのさ、ナツさん。みんなも気にしてるんだけど、徘徊者ってそもそも食べておいしいの?』
『うまいとかそういうので食ったことないな。生活必需品だからよお。もしかして、興味あるのか? じゃあ、今日は食用にできるモンスターでも紹介するか?』
『押忍! お願いしまーす』
明るい返事はため息で返されたものの、その吐息さえうまいと感じる。ナツさんは後ろから私をこのフロアの奥の方まで誘導した。誘導した先は、宝箱でいっぱいだった。
『え、宝箱? もしかして、これ全部ナツさんの所有物?』
『まあな。ミミックだったものを改良して、食料倉庫にしてる。まず、食用になる者って言ったら雌のスクリームだ』
『徘徊者にも雄雌あるんだ......』
『あとは、眼が退化して無くなったアイレスオークかな......。小さいが、脳みそはうまいぞ』
『うえ......』
宝箱の中から、どんどんと出てくる謎の肉たち。どれも、腐らないように干してある。ほんとにここでサバイバル生活してたんだ......。
『食用になるアイテムがドロップするのは稀だから、今日はこれで料理するがいいか? 狩りの方は、また狩場があるから次の機会でってことで今日はお試しだ』
そう言って、彼はスクリームの肉を取り出した。さらに、草も何本か別の宝箱から取り出していく。あれは、なんだろう薬草?
『それは、薬草?』
『ああ。これで味や解毒をする。スクリームを調理するなら、解毒は必要だからな』
ナツさんは手際よく調理器具をポンポンと取り出して、肉と薬草を焼いていく。
さらに、キャンプでよく見る飯盒炊飯のセットを取り出してお米を炊き始めた。いよいよ私のお腹も鳴ってくる。さすがにお腹が空いてきた......。
『よし、できた。ただただ焼いてみただけだが、シンプルイズベストって奴だ』
案外、焼いた肉の姿はよくあるビーフジャーキーみたいだ。
ごくりと喉を鳴らすも、やっぱりあのモンスターの影がちらつく......。
:くーえ、くーえ!
:くーえ!くーえ!
:感想はよ
『それじゃ、このダンジョンは生き抜けねえよ。生き抜きたくば、喰らえ。ってやつだぜ』
『わ、わかったわよ......!』
食べればいいんでしょ、食べれば!!!
私は、そのジャーキーに手を伸ばして食べた。噛めども噛めども、普通のジャーキーと変わらない。むしろ、少しおいしい部類のジャーキーだ。油の部分があって、意外に行ける。私はそれをおかずにご飯を頬張る。うまい......。久しぶりの温かいご飯......。ちょっと、沁みるな。
『おいおい。泣くほど、まずいか?』
『うっさい......。う、うまいわ』
『そうか......。なら、実際に取りにも行くか』
『うん』
コメント欄は、私を励ます言葉であふれかえった。どうしてこんなことに......。別に、寂しくて泣いてるんじゃないんだからね!
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