最終記録

■最終報告


【タイトル】


 『AMADEUS』



【概要】


 TSUNAMI社のリズムゲームブランド『MUSICA』の新作として開発されていたアーケードゲーム筐体。

 筐体全体が楽器のように音を響かせられるデザインになっており、プレイに応じた生演奏をウリにしている。


 しかし奏でられる音楽に違法薬物と同等以上の中毒性があり、いちど耳にすると当該ゲーム以外のあらゆる音が不快になる。

 



【異常性】


・当該ゲーム筐体に収録された音楽を耳にしたプレイヤー以外の有機物は、奏でられる演奏に心を奪われる。

・異常性はプレイヤーにも影響を及ぼすが、聴衆ほど深刻な被害は出ない。

・異なる薬効成分を食べてはいけないように、赤と青の点滅を暗いところで見てはいけないように、音楽にも悪い聞き合わせがある。

・音楽には違法ドラッグよりも危険な中毒性がある。

・音楽中毒症状は、プレイヤーの場合は約1ヶ月、聴衆の場合は約1年続く。ただし個人差あり。

・生活音の不快感を克服しても、ほかの音楽が聴けなくなる後遺症は一生残るとされている。


・ノルマクリア失敗時に音楽が中断されると、聴衆が暴徒化する恐れがある。

・いちどでも天才の奏でた本物の音楽を耳にすると、それ以外のあらゆる音が聞くに堪えなくなる。

・当該ゲームに収録された音楽自体に異常性はなく、サウンドトラックの発売や別のMUSICAゲーへの収録も許可されている。

・当該ゲームにはアニソンやJ-POPなども収録されている。筐体に異常性があり、奏でられた音楽に中毒性が発生する。


・1,2曲目のスコアによって、3曲目に選ばれる曲が変わる。いわゆる“もう1曲遊べる”というヤツである。

・2曲ともスコアが90%以上かつ殆どが『perfezione』(『bene』以下が10個まで)の場合、3曲目に選ばれる曲が確実に“指揮者(プレイヤー)に最も合った即興曲”になる。

・それ以外の場合、『プレイ終了』、『筐体が勝手に選んだ普通の曲』、『プレイヤーに最も合った即興曲』がランダムに選ばれる。

・即興曲は『AMADEUS』に収録されておらず、内部の優秀なAIが作曲したものと推測される。

・ただし作曲AIの技術は100年以上先を行っており再現・解析不可能(アイゼ談)。



【結果】


 異常性の制御は不可能だが、プレイしなければ異常性は発現しないため、当該ゲームは電源を完全に遮断したうえで封印指定となった。

 ただし筐体が楽器の形をしているため、何らかの手段で音楽が演奏される可能性あり。

 引き続き解析を行ない、もし未プレイ時でも発現する異常性が確認された場合、危険度レートの格上げが必要となる。


 またTSUNAMI社に潜伏していた作曲AIの開発者について、今後も類似事例を引き起こす可能性あり。

 バグ・ナウ研究所は各国機関と連携し、まずは人物の特定から進めることを決定した。



【最終注記】


 「音楽とは上手くあってはならず、不綺麗で、心地よくあってはならない」


 “本物の音楽”を知るのは、古代より、王族や貴人のみとされている。

 彼らは芸術のためなら魂すら投げる。

 ともすれば、“音楽という概念”そのものに、異常性があるのやもしれない……。

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