SS第6話『未解決大規模喪失不可解事件』
※この話は作品のネタバレが含まれているため、最低でも本編第30話『杞憂で終わってほしいとただ願う』を先にご一読いただくことを強く推奨します。
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カザック学園長は、疑問の正体を探るべく図書室へ足を運んでいた。
向かった本棚は授業では取り扱われないものの、教師によってはポロッと雑談程度で話すような内容が記載される本が並ぶ箇所。
「これだな」
手に取ったのは【未解決事件】と題名が書かれている本。
埃を被っていることはないが、物好きぐらいしか手に事がないその本は新品に近いほど綺麗だ。
「……」
本を開いて中身を確認すると、お目当てのものはすぐに見つかる。
厚さはそこそこあるものの、全てが関連している事件であり、そもそもどの図書館に行ったとしても3冊程度しかない。
他2冊は様々な未解決事件や、魔法と関りがあるのか鑑定できなかったから載っているものもある。
しかしこの1冊だけは、明らかに魔力が関係している事件ということは誰が見てもわかる内容だというのに何もわからなかった事件だけしか載っていない。
「これも、これも――これも、これもだ」
そして全てに共通しているのは、全てが燃え炭だけになっているような、塗料で黒く染め上げられたような事件跡。
魔力痕跡があるはずなのに、どのような手段を以ってしても採取することはできなかったと記されている。
そしてカザック学園長は、誰も事件の根底に行き着いていないというのに、その現象について心当たりがある。
「これは、やはりそういうことだよな」
もはや確信を得ていて、それはあまりにも直近で目の当たりにしたから見間違えるはずがない。
(学園の生徒を疑うような真似をしたくはないが、もはやただの事実でしかない。直に見たわけではないが、凄まじいな……)
記述されている文言だけでも、広範囲にわたる事件だと判断でき――その1つの山が消え去った――という内容は誇張を疑いそうになる。
しかしアキトと力比べをして、その圧倒的な実力を体感しているから全てが事実でしかない。
「――この時間は、さすがにギリギリすぎるか」
本を閉じ、天井近くまでの高さにある針時計を確認。
大体の生徒は登校を終え、授業の準備を始めている時間だ。
「今日のお昼時間にでも確認してみよう。さて、今日は巡回をしよう」
本を元の場所へ戻し終えると、ふと思い出す。
(そういえば、スレンくんのご実家は事件の捜査に関わっていたような。同室同士で、なんとも不思議で凄い縁だ)
感心しつつ、事件の情報を知っている可能性に賭けて情報を聞き出そう、と策を練り始めながら歩き出す。
(しかし、実に興味深い魔力操作方法と魔法威力だ。彼は間違いなく、現代最強の魔法士と称されようと、疑いを簡単に払拭するほどの強さを証明できるだろう)
自身が敗北した経験からの憶測ではあるが、未解決事件を起こした張本人と言うだけで、もはや検証などする必要はない。
廊下に出て、遅刻ギリギリに走りこんでくる学生たちへ挨拶をしようと、校門へ足を進める。
(そういえば彼らは、毎朝鍛錬を続けているのだな。体力面も鍛えているのだから見上げたものだ。できたら他の生徒たちも見習ってほしいものだが)
教育方針を変えたくても、現在の魔法士の未来像がそうではないため非常に厳しい。
それに、生徒たちは平等に扱われるも外部からの圧力を考えると、つい顔が歪んでしまう。
(ぜひともアキトくんには、実力を隠さず振舞ってほしいものだがね。過信せず高みを目指し続けるのはいいことだが、日頃の扱いに反抗するぐらいはやってもらいたいところだがね)
外へ出てすぐ、やはり遅刻ギリギリで焦り駆ける生徒たちと遭遇し、笑みを浮かべながら挨拶の言葉をかける。
彼ら彼女らは足を止めたくてもできず、せめてもの礼儀として大声で挨拶を返して通過していく。
それを見て、自身の学生生活を思い出すも、遅刻とは無縁の生活を送っていたから共感はしてあげられず。
しかし青春の風景を前に、褒められた一生懸命でもつい応援してしまう。
「遅れたら大変だぞー! 頑張れー!」
呑気に声援を送る自分を見て、生徒たちはどう思うのかと考えてしまうも、上がった口角は下がらない。
「私も学生たちの気持ちに寄り添えるよう、1日だけでも寮生活をさせてもらえるか交渉してみるのも楽しそうだ」
そんなことをされたら、学生たちがせっかく心休まる時間がなくなってしまう。
しかし学園生活をしていた時期からかけ離れてしまっていて、そんな簡単なこともわからなくなってしまっていた。
なんせ楽しそうだからと、このまま学生寮へ足を運ぼうとしているほどワクワクを募らせているのだから。
「ん? なんだ、勢いそのままに転倒してしまっている生徒がいるじゃないか」
なんと励ましの言葉を掛けてあげようか、と少し楽しそうな足取りで向かうと。
「大丈夫かね、さあ立って。まだ間に……あ……お、おい! アキトくん!?」
そこには、完全に気を失っているアキトが横たわっていたのであった。
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