捜索
ご主人から貰った情報をひたすら頭の中で反復していく。忘れてはいけない。
ご主人の言った情報に合致する証言には5つほど心当たりがあった。
その中でも一つ、特に気になるところ。
「……胸糞悪い」
その証言の内容を思い出し、思わず顔を顰め呟いてしまう。
とにかくまずは一番可能性の高そうなところから当たっていこう。
ご主人の家から国一つ分行った先にある広大な森に点在する集落。
その集落を作っているのは古くから存在する閉鎖的な民族、アバルバ。
アバルバに伝わる術法はある条件を持つ人間の血肉を必要とする。だから、私には心当たりどころの話じゃない。
行方不明になったのが、文通仲間と連絡が取れなくなるということは恐らく3月は前だろう。
アバルバの術法は血肉を使うときは特に盛大な儀式を必要とする。6月もかけて行う儀式だ。
だから、まだ間に合うはず。
「お願い………」
ご主人は、祈っても神は聞いてないから意味がないと言っていた。それでも祈らずにはいられないと思う。人間だから。
点在する集落の家々を調べていくが、濃紺の髪にガーネットの瞳を持つ女性は見つからない。
「既に儀式部屋に連れて行った……?」
まさか。
何が何でも早過ぎる。
でも、もう探していないのはそこだけだ。
見てみないことには、分からない。
「いってみよう……」
儀式部屋は要は生贄を儀式前に留めておく為の建物。そこは何不自由なく暮らせるように整備されているにも関わらず、行動が著しく制限されるという歪な部屋。
森に点在する集落のまとめ役である
だからそれを知っていれば簡単に見つかる。
先程と同じように窓から各部屋を覗いてみるが、情報と合致する女性は見当たらない。
「まさか……地下?余程抵抗したのかな……」
儀式部屋には特定の者にしか知らされていない躾の間という地下空間がある。
反抗心の強い者はそこに延々と閉じ込められ、拷問に近い暴力が躾と称して行われる。
もしかしたら最初から強く抵抗して手がつけられないと判断された結果早くから地下に入れられてしまったのかもしれない。
「中に入るしかないか……」
出来ることなら入りたくない。特に地下は。
でも今は私情より命だ。
幸い地下への行き方も知っているからすぐにでも行動を起こせる。
「よし」
地下に行くまでの道のりが最短距離になる場所の窓から侵入して地下へと向かう。
儀式部屋には人の気配が全く無かった。
そして、地下の扉を開けた。
「…………っ」
血の匂いが一気に押し寄せてくる。
探していた人は、既に死んでいた。
腐敗が始まっている。
「ご主人、既に亡くなってます」
『……そうか。ご苦労だった、帰っていいよ』
「はい、失礼します」
私はご主人に結果を端的に報告して、自分の部屋へと帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます