第20話「Whole Lotta Love and passion」
揺れた。
「ベル!」
魔動列車に乗って数時間。
座席に座ってウトウトしかけていたあたしは、唐突な揺れと、ルシヴァ様の掛け声によって目を覚ました。
「コイツは!」
ルシヴァ様が見ているのは、窓の外。
あたしも隣から覗くと、そこには……
飛行しながら列車と並ぶヴィランの姿があった。
「石の体表に翼を持つ悪魔の様な異様、ガーゴイルのヴィランだ!ベル、いつ次の攻撃が来るかわからない、注意して!」
ルシヴァ様が、敵の見た目からその正体を教えてくれた。
やん、博識ぃ。
どうやら先程の揺れは、コイツがこの魔動列車に攻撃を仕掛けて来たせいらしい。
車内は軽いパニック状態。
叫ぶ人、うずくまる人神に祈る人、てんでバラバラだ。
そんな中、窓の外ではヴィランが再び突進しようと構えているようだ。
あのヴィラン、強そう……そんな事を考えていると、ルシヴァ様はあたしに言った。
「ベル、人命優先だ!この車両は危ない。なるべく多くの人を前か後ろの車両に避難させないと!」
その言葉と同時に魔獣の突進が繰り出され、車内は再び揺れる。
二度目の強振で混乱はさらにヒートアップ。
その状況を打破する為、ルシヴァ様は慌てふためくこの車両の人々に向かって声をかける。
「みなさん、落ち着いて!今、この車両はヴィランから攻撃を受けています!速やかに前か、後ろの車両に避難してください!」
「ヴィランだって?」
中年の男性が驚いて叫ぶと、続けて他の乗客も恐怖と混乱が伝染していく。
しかし、そんな状況の中、ルシヴァ様は帯刀していた剣を抜き、大声で叫んだ!
「落ち着きたまえ!私は遊撃騎士ルシヴァ・オルランド!この剣にかけて誓おう、あのヴィランは必ずや倒す。だが、その為には皆の安全を確保する事が第一だ!私の憂いを断つ為にも協力をお願いしたい!」
大きくて、よく通る優しい声が車両全体に響き、一人また一人と冷静さを取り戻し始める。
「ルシヴァ様だ、オルランドの遊撃騎士!」
「みんな!俺達は助かるぞ!」
「ルシヴァ様のおっしゃるように避難しよう!」
「子供と老人を先に、さあ、早く!」
それぞれが自己の判断で動き、前後の車両へ避難し始める中、ヴィランの攻撃は続く。
そう言えば彼はどこに行ったのだろう?
数時間前にルシヴァ様から紹介された御友人は。
「ルシヴァ様、レイさんの姿が見えませんが何処かしら?」
あたしの問いかけにルシヴァ様は微笑み応える。
「外だ」
え?急いで窓の外を見る。そこにはヴィランに攻撃を仕掛ける赤い騎士の姿があった。
ズルいぃ、抜け駆けされた。あたしが戦いたかったのに!
「いいなぁって顔してるねベル」
心を読まれた!
流石ルシヴァ様。
あたしの事なんでも知ってくれてるんだから。
好き!
「幸か不幸か、この車内にも何かがいるよ、気をつけて!」
ルシヴァ様が指を差し、後ろを振り向くあたし。
車両の隅、何か小さい影が動いた。
「なにあれ?」
「わからない」
その声に反応するようにして、影が飛び出す。
「猫?」
それは淡い光を纏った、人の子供くらいの大きさをした猫のような魔獣。
「これは恐らくカーバンクルだ。可愛い!じゃない、気をつけてベル。この子は……」
先手必勝!「闇より燃ゆる黒き火球よ、眼前の敵を焼き尽くせ」
「ダメだ!」
ルシヴァ様の声を聞く間もなく、あたしは魔法を詠唱し放った!
暗黒火球-ダークフレア-
本来は火球-ファイアボール-という初級魔法だが、あたしの暁闇の紋章で闇の属性を付加し、威力を100%で放てる。
カーバンクルと呼ばれた魔獣に向かって飛んでいく黒い火の玉。
それが直撃したと思った次の瞬間。
あたし目掛けて、黒い火の玉が倍の速度で放たれていた。
「は?嘘でしょ?」
見ると、カーバンクルは反射魔法を使った直後に後方へ飛び、再び座席の後ろへ身を隠した。
状況が把握できず、狼狽えるあたしに迫る火球。
ダメ、防御魔法も間に合わない。
「ベル!」
その声が聞こえた次の瞬間には、あたしはルシヴァ様に抱きしめられていた。
前にもあったのと同じ様に、その大きく優しい腕に……
ただ一つ、ロックス領の時と違うのは、ルシヴァ様が暗黒ヂカラを使わないという事だった。
「うわあああぁ」ルシヴァ様の悲鳴と共に、焼ける音が聞こえた。
「ルシヴァ様!いやあああ、ごめんなさい、あたしのせいで!」
「ベルのせいじゃない、これは僕のミスだよ。気にしないで」
あたしに心配させまいと、痛みを我慢して無理やり笑顔を作ってるルシヴァ様。
「そんな、だってルシヴァ様、背中が……」
「ごめん、ベルには言ってなかったんだけど、僕の紋章の能力は"何かを奪う"。ただし、その代償として奪ったものの大きさに比例した期間、紋章を使えなくなるんだ。ロックス領ではかなり多用したから……多分、回復まであと3日はかかると思う」
背中の痛みが余程辛いのか、ルシヴァ様の身体が小刻みに震えている。
「それなのに、なんであたしを庇ったりしたの?」
「決まってるだろ?」
「君が大切だからさ」
あたしはその言葉に打ちのめされた。
あたしバカだ!
ルシヴァ様はこんなにも思ってくれてるのに、あたしは彼の為に何ができたというのか?
いや、今すぐやれ!言い訳するな!
あたし、動け!ここであの人の助けにならなきゃ、一緒に歩む資格はない!
「闇よ誘え、癒しの夢へ。降りろ帷、安寧の闇」
闇魔法 「闇の帷 -カーテンコール-」
「うっ、ベル。これは……」
「ルシヴァ様ごめんなさい。あたしのせいで、痛かったよね、あたしがルシヴァ様の静止を聞かなかったから!」
あたしは弛緩し始めたルシヴァ様を抱きしめた。
あたしがルシヴァ様にかけたのは、あたしの覚えている中で最上級の治癒魔法。
ただし、完治にはその傷の大きさに比例して眠りの時間が長くなるデメリットが必要となる。
あたしの眼を見つめるルシヴァ様。
「ベル、わかった。君を信じ……る、無茶、しな、いで、ね……」
そう言って、深い眠りに落ちていった。
いつだって優しい人、あたしの大切なルシヴァ様。
「魔法が効かない?上等じゃない!宣告したげる!」あたしはまだコソコソしてるカーバンクルを指差す。
「あんたはあたしの魔法で倒す!絶対の絶対の絶対にね!」
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