第6話「紋章」

 なんでやねん。

僕はたまらず心の中で一人、ツッコミを入れた。


 「それではこれよりレイト騎士団長と、オルランド遊撃騎士ルシヴァ殿の模擬戦を開始します」

国王陛下が観に来ると、さっきレイトから聞かされた僕は、内心こういう展開になるのではないかと案じていた。


 「なんだ?浮かない顔をしているなルシヴァ。俺との手合わせでは不服か?」

「そういう事ではないです。そもそも僕はここに作家として来たのですよ?」


「重々承知だが?」

「だったらなんで僕が、王国一の剣士である貴方と一試合する流れになっているんですか?」


「それは決まってる、俺がお前を指名したからだ」

でしょうね。


「僕はまったく試合たくないのですが」

「それは知らん。俺はお前と戦いたい」


 相変わらず、戦いに関する事になると話が通じない。これはレイトの悪いところだ。


 こんな事なら遊撃騎士の任命なんて受けるんじゃなかった……


 遊撃騎士。それは国や領の有事において、個々の判断で行動しその有事に対する迎撃を行う特殊な立場を与えられた騎士だ。

その選定基準は基本的には強さが一番に求められるが、有事において即座に対応する判断力、権力を傘に着せない人間性も重視される為、ある意味では神聖騎士と並ぶくらい任命されるのが難しいと言える。


 何故僕がそれに任命され、拝受したのか。


それはひとえに、領地オルランドの権威を保つ為と、僕のやりたい事を優先させてくれる兄エヴァンスを始めとする、家族へのせめてもの恩返しが理由だ。


それに僕の仕事は作家だ。締め切りという恐怖の対象があるにはあるが、キチンとしていれば比較的時間の自由はある職種で、取材という形で様々な地方に出向く事もしばしば。


そんな人間が遊撃騎士となれば、いつどこで有事が起こったとしても、素早い対応が出来る。


強さに関してもある程度迄なら問題はないと思っているしね。


何故なら僕の師匠は……


 そんな思案の最中、痛いくらいに突き刺さってくる視線を感じた。

訓練所に臨時で準備されたであろう貴賓席。

そこに鎮座する国王陛下とその側近の方々。うっわ、観てる、見てる、視てらっしゃるなあ。


 神聖騎士であるレイト・クシュリナーダ。

それに対するほぼ無名の僕がどんな立ち回りをするか、気になるのはわかるんですが。

正直言って勘弁して欲しい。

僕は公の場では本気は出せない。

それは"貴方が"一番良く知っているでしょうに……

陛下も人が悪い。


「それでは、これよりエルデリーグ王国騎士団による模擬戦を始めたいと思います。両者共前へ!」


 もう?ええい、決まってしまったからにはもう、ウダウダ言っても仕方がない。

そう腹を括って前に進み出た僕に、レイトが微笑み掛けた。

「手を抜くなよルシヴァ」

見透かされたか。

でも、手を抜く気は毛頭ないさ。

だけど、オーラを使うわけにもいかない。

その状態でどう試合を組み立てるか、かなりの難関ではあるけれど……

あくまでも僕は遊撃騎士として、正々堂々キミに挑むよレイト。


 互いに礼。


僕は左手に持った木刀の柄を右手で掴み、王都の学院時代に習った基本の構えを取る。

レイトも同様の構えを取り、お互いの戦闘準備が整った。


 審判を務めるはエルデリーグ騎士団の副団長を務めるギャンボーさん。名前の素敵な老紳士だ。


「はじめ!」


彼の合図と共に飛び出したのはレイト。

真っ直ぐ僕のいる先に駆け出し、凄まじい速度で突っ込んできた。


しかし、彼はその途中で軌道をゆるめ、果てには止まって微笑みを浮かべる。


「やるなルシヴァ」


流石はレイト。

僕の返し技を事前に読んだようだ。


「そっちこそ」

そう軽く言いながら、僕は内心かなり焦っている。


いま僕は技を仕掛けようとしていた。

リスクと引き換えに相手の力を返す迎撃技、"黒徒影"


相手の攻撃に乗った力の起こりを潰し、その身体を真っ二つに切り裂くと言う、反撃される側にもする側にとっても中々危険が付き纏うエグい技だ。


ここにくる前に戦ったヴィランには有効だったのだが……


レイトは力の起こりを自ら止める事で、ボクの技を封殺した。

凄い、彼の洞察力、判断力、すべてが高次元に鍛え上げられているからこそできる芸当だ。


 まずい。


悪い癖が出てきちゃいそうだ……


戦いが……楽しくなってきちゃうじゃないか。

思わずニヤけてしまいそうな顔。

何とか気を引き締めて、次は僕から仕掛ける。


 「オラァァァァ」

僕は握ったままの木剣を上段に構え、そこから振り下ろす。

対するレイトはそれを下段から迎え撃った。

かち合う二振りの木剣。

ぶつかり合った衝撃で木剣が弾け、廻りながら上に飛ぶ。


 レイトはそのまま空になった手を握りしめて、僕の左頬に拳を捩じ込んできた。

強烈な痛みが走ったが、それはレイトもおなじだ。

僕はレイトの右ストレートに合わせて、同じく右ストレートをカウンターのタイミングでクロスするように被せた。

「がっ」

「ぐっ」

お互いに受けたダメージがでかく、身体がふらつく。


 一度、仕切り直すために後退。

レイトも同様。

そして、示し合わせたように互いに右手を上げる。

そこに、さっき上空に飛ばし、落下して来た木剣がそれぞれの手に収まる。


 「ブッ……あーしんどい」

僕は口に溜まった血も吐き出し、いま心から感じている事も吐き出した。

歯は折れてない、けど口の中が少し切れたらしい。

だが、ヤバい。

楽しい。

そんな僕の気持ちに同調するように、目の前のレイトが満面の笑みを浮かべた。


 「楽しいなルシヴァ。やろう、トコトン」

すると、木剣を左手に持ち替えて右手のグローブを脱いだレイト。


 ん?トコトン?

まさか、アレを使う気?

本気か?


 「ハハハ、やはりお前は最高だ!使わせてもらうぞ、この"白日の紋章"を!」


そう宣言した次の瞬間、レイトの右手にある"紋章"が、太陽の様に煌めいた。


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