第3話「黒く塗りつぶせ!」
訓練所の先にある王都の広場。
そこに並んだお店の中の一つ。
王都でも安くて速くて美味いと評判の大衆食堂「飛竜のしっぽ」
僕も大好きで、王都に来ると良く食べに行く。
その店先で看板娘の女の子が、ヤバいヤツにトコトン困らされていた。
「ホントに迷惑なんです、いい加減にして下さい」
彼女を困らせるヤバいヤツこと、目の前のオークみたいなおっさん。
身なりからして貴族であろう彼は、彼女の言葉を意に介さず両手を上げてムカつくしたり顔を浮かべている。
「おいおい、まいったなあ。このボクは君のそういう生意気な所も好きだけど、いい加減にして欲しいのはこちらのセリフだよレイチェル」
「私はあなたなんて、全然好きじゃないって言ってるじゃないですか!」
「確かに言ってる。そう、天邪鬼な君の心と裏腹なボクへの愛の言葉」
野次馬達がみな揃って、頭をぶん殴られた妖精のような顔になり、王都の往来に一陣の冷たい風が吹くが、そんなのどこ吹く風で彼は続ける。
「いいかい?このダスクネル卿が、何故自らこんな小汚い食堂に来てやっていると思うんだい?」
レイチェルは自分の働く店を悪く言われ、ムッとした顔で反論した。
「さあ、暇だからでしょ?」
「ノン!君が好き、それだけのことさ」
パチンとウインクするダスクネル卿。
「キモっ」
そう言わざるを得ないであろう本音を繰り出し、スンとした表情になるレイチェル。
僕、ルシヴァはその二人のやり取りを野次馬に紛れて聞いていた。
「女性の叫び声がしたから、何事かと思って来てみればただの痴話喧嘩ですか」
これなら訓練所に向かって大丈夫だろう。
オーラを使っての全力疾走のおかげで、想定よりも速く到着できたから、まだあと5分くらい余裕がある。
僕が食堂から訓練所へ向かおうと振り向いたその時。
「なん……だと?このダスクネル卿がなんだって?」
背後から聞こえたダスクネルの声と共に不穏なオーラを感じ取り、僕はヤツの方へ向き直した。
「まさか!」
僕が向きを変えたと同じくらいのタイミングで、ダスクネル卿の身体が突然震え始めた。
そして、異様な音を立てながら、彼の肉体が人間とは別の何かに変貌し始める。
「キモって言ったね?今、キモって言ったよね?」
世にもキモく醜いその顔は、まるでオークの如く変貌……
あれ?元からオークみたいだったからあんまり変わってないかな?
強いていうなら身体が大きくなったけど、ぶっちゃけあんまり変わらない気がする。
「あーあ、それはダメ、ダスクネル傷ついた。もうホント許すまじって思ってる」
野次馬のみんなも、ダスクネルの身体から変な音がするけど、彼の変化にはあまり気付いてないようだった。
だが、僕は知っている。
アレは魔物と人の合成獣 ヴィラン。
僕の……敵だ。
状況を把握し、僕は"飛竜のしっぽ"に向かった。
そして、騒ぎを聞きつけて外に出ていた食堂の大将を発見。
騒めく野次馬を掻き分けて進み、声をかける。
「大将すみません。おトイレお借りしてもよろしいですか?」
「今かよ!化け物が現れたってのに呑気な……って、オルランドのボンじゃねえか!ああ、なるほどな。いいぜ、使いな」
大将のいい感じのツッコミを受け、僕は飛竜のしっぽのトイレに一直線!
そして、トイレの中で僕は、すぐさま召喚術の詠唱を始める。
この術式は僕の魔力で作った異空間から無機物を召喚するものだ。
今は急ぎなので、その辺は後程ゆっくりと説明したい。
「暗闇よりもさらに深く、漆黒の海にたゆたう異装。我を黒く塗りつぶせ!」
その詠唱を唱えると共に、何もない空間に浮かび上がった漆黒の魔法陣。
その黒い文字の羅列が僕の身体に向かい、この全身を黒く塗りつぶしてゆく。
「黒より暗く、闇より深く、夜を駆ける」
漆黒の甲冑に身を包んだ僕は、今からルシヴァ・オルランドでは無い。
わたしは……
一方、食堂の外では、あまり変化のない変貌を終えたダスクネルがレイチェルに迫っていた。
「さて、ちょっとだけお仕置きしてから、今日こそ君をわたしダスクネルの邸に連れて行こう。抵抗なんてしないようにね。でないと、この店がどうなっても知らないよ?」
「な!卑怯化け物!」
「ブフッ、女の子にお仕置き、いかんなぁ貴族であるにも関わらず、興奮が抑えられそうにない」
醜悪な顔で躙り寄るオーク。
先程よりも化け物の比率が高くなっている。
「来ないで」
レイチェルの悲痛な叫び声。本気で嫌なのだろう。
対して欲望のまま突き進むダスクネル。
その魔の手が掴みかかろうとしたその時!
何もできないでいる群衆をかき分け影が飛び出す。
「そこまでだ!」
飛竜のしっぽから勢いよく駆け出し、二人の間に飛び込んだ漆黒の影の正体。
暗黒卿ヴァルス、只今参上!
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