第17章『最後の武器と動き出す闇』
古代遺跡の最深部で、最後の厄災兵器『静寂の盾』を台座から外した時、三人の間には張り詰めた安堵が流れた。「やったな……!これで、全部だ」。ガルドが満足げに息をつく。「ええ!長かったけど、ようやく……」。リリアーナの瞳にうっすらと涙が浮かぶ。クライヴもまた、胸の奥で重い何かが消えていくのを感じていた。長かった旅が、ついに終わるのだ。
「ご苦労だったね、クライヴ。そして、その仲間たちも」。その声は、背後から、あまりにも突然に響いた。振り返るまでもない。その声の主を、クライヴが忘れるはずもなかった。そこに立っていたのは、全ての元凶である、かつての師、ゼルギウスだった。彼は、まるで散歩でもしているかのような、穏やかな表情を浮かべていた。
「てめえ……!よくも抜け抜けと!」。ガルドが怒りの咆哮と共に、ゼルギウスへと突進する。その拳は大地を砕くほどの威力を秘めていた。だが、ゼルギウスは杖を軽く一振りしただけだった。「愚かな……。力とは、そう使うものではないのだよ」。次の瞬間、ガルドの体は見えない壁に激突したかのように吹き飛び、瓦礫の中へと沈んだ。
「ガルド!」。リリアーナが悲鳴を上げ、すぐさま風の魔法を放つ。だが、彼女の風はゼルギウスに届く前に霧散してしまった。「なっ……!?」。ゼルギウスはクツクツと喉を鳴らして笑う。「君の風は美しいが、私の闇の前では、ただのそよ風にすぎん」。彼が指を鳴らすと、リリアーナの体は黒い影に縛られ、その場に崩れ落ちた。
あまりにも、圧倒的な力の差だった。ガルドも、リリアーナも、指一本触れることさえできずに倒された。クライヴは、その光景をただ呆然と見つめることしかできない。「さて、クライヴ。これで邪魔者はいなくなった。ゆっくりと話をしようじゃないか」。ゼルギウスは、絶望に染まるクライヴの顔を、心底楽しそうに眺めていた。
「なぜ……なぜこんなことを……」。クライヴの口から、か細い声が漏れた。ゼルギウスは、その問いに心底愉快そうに答える。「決まっているだろう。世界を、より混沌とした、美しい場所にするためさ。そして、そのためには、お前のその最高傑作が必要なのだよ」。彼の視線が、クライヴの腰にある『無銘ノ剣』に向けられる。
「私が各地に武器をばら撒いたのは、いわば余興にすぎん。私の真の狙いは、最初からそれ一つだけだ」。ゼルギウスは恍惚とした表情で語る。「絶対に折れず、欠けず、あらゆる攻撃を無効化する剣。それこそが、私の理想の世界を創るための、最後の鍵なのだよ」。クライヴは、ようやく彼の真意を理解した。
この男は、他の武器などどうでもよかったのだ。ただ、クライヴの魂そのものである『無銘ノ剣』だけを、手に入れるために。そのためにアレンを操り、リリアーナを苦しめ、世界を混乱させてきた。そのあまりにも身勝手で、悪辣な事実に、クライヴの心は怒りを通り越して、冷たい虚無に沈んでいった。
「さあ、それをこちらへ渡せ、クライヴ」。ゼルギウスが、ゆっくりと手を差し出す。「お前が素直に渡せば、仲間たちの命だけは助けてやってもいい」。それは、悪魔の囁きだった。だが、今のクライヴには、もはや抵抗する気力すら残されていない。仲間を倒され、希望を砕かれ、彼の心は完全に折れていた。
クライヴは、震える手で『無銘ノ剣』の柄に手をかけた。もう、どうでもよかった。自分のせいで、これ以上誰も傷ついてほしくない。彼が剣を抜こうとした、その時だった。「……諦めるな……クライヴ」。瓦礫の中から、血だらけのガルドが、かろうじて身を起こした。「……お前は、一人じゃない……」。リリアーナもまた、影の拘束に抗いながら、必死に声を振り絞っていた。最終決戦の幕が、今、静かに上がろうとしていた。
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