第4章『疾風の弓使いと風槍の奪還』

炎剣を回収し、次の目的地である山岳地帯へと二人は足を踏み入れた。ごつごつした岩肌が続く、風の吹き抜ける険しい道だ。「次の武器は『風槍』。風の魔力を込めた、疾風の一撃を放つ槍だ」。クライヴの説明に、リリアーナは自信ありげに胸を張った。「風なら私の専門分野よ!任せておいて!」。その言葉は、強がりなどではないことを、クライヴはすぐに知ることになる。


「いたわ……!この先の峠に、すごく乱暴な風が渦巻いている」。リリアーナが鋭く前方を指差した。彼女の能力は、同系統の魔力に対して特に敏感に反応するらしい。峠に差し掛かると、その言葉通り、複数の人影が岩陰から飛び出してきた。「待っていたぜ、旅人さん!ここを通りたきゃ、荷物を全部置いていきな!」。軽薄な声とは裏腹に、その身のこなしは異常に素早かった。


首領らしき男が手にしているのは、紛れもなくクライヴが作った『風槍』だった。槍が青白い光を放つと、盗賊たちの足元に風が巻き起こる。「ヒャッハー!こいつら、カモだぜ!」。彼らは岩から岩へと、まるで残像を引く疾風のように跳び回り二人を取り囲む。その動きは目で追うのがやっとで、クライヴは『無銘ノ剣』を握りしめ、全神経を研ぎ澄ませた。


「クライヴ、動かないで!私が風を読んであげる!」。リリアーナの凛とした声が響く。彼女は弓を構え、目を閉じて深く集中していた。その姿は、まるで風と対話しているかのようだ。「右から二人、左から一人、上よ!」。彼女の言葉と同時に、クライヴは襲い来る刃を的確に弾き返す。まるで背中に目がついているかのような、完璧な連携だった。


だが、敵の速さは尋常ではない。クライヴが一人を防いでも、別の角度から次の一撃が襲い来る。彼自身の剣技では、この目まぐるしい猛攻を捌き切れない。(これが……俺の作った武器の速さか……!)。自らが作り出した脅威に翻弄される無力感が、彼の心を苛んだ。その時、リリアーナの反撃が始まった。


「私の風からは逃げられないわよ!」。彼女が放つ矢は、敵を傷つけず、その足元の岩を正確に砕く。体勢を崩した盗賊に、すかさず風の魔法が襲いかかり、動きを封じていく。その戦いぶりは、もはや守られるべき少女のものではなかった。クライヴはただ、彼女が生み出す好機を逃さぬよう、剣を構え続けるしかなかった。


いつの間にか、攻守は完全に入れ替わっていた。リリアーナの予測と援護が完璧すぎるのだ。(俺は……彼女に守られているのか)。その事実は、彼の自尊心を少しだけ傷つけたが、それ以上に、隣で戦うエルフの少女への信頼が胸を満たしていく。彼女は、か弱いだけの存在ではなかった。共に戦う、対等な戦士だった。


「首領はあなたね!その槍、返しなさい!」。リリアーナの鋭い声が飛ぶ。彼女が放った矢が、首領の持つ風槍の穂先を掠めた。一瞬、風の魔力が乱れる。その好機を、クライヴが見逃すはずもなかった。「しまっ……!」。狼狽する首領の懐に、クライヴは音もなく踏み込んでいた。彼の剣が、首領の喉元にぴたりと突きつけられる。


「な、なんだその動きは……!」。首領は恐怖に顔を引きつらせた。「風の加護がある俺たちに、追いつけるはずが……」「お前たちが頼っているのは、ただの道具の力だ」。クライヴは冷たく言い放つ。彼は首領の手から風槍を奪い取ると、炎剣の時と同じように、その魔力の流れを完全に遮断した。槍から放たれていた風の輝きが、静かに消えていく。


夕陽が山々を赤く染める中、クライヴはリリアーナに静かに告げた。「君は、俺が守るだけの存在じゃないな」「え?」「……頼れる、相棒だ」。その言葉に、リリアーナは一瞬きょとんとした後、満面の笑みを浮かべた。「当たり前じゃない!」。二人の間には、確かな絆が芽生え始めていた。次の目的地を目指す足取りは、これまでよりもずっと軽く感じられた。

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