俺の作った武器が世を乱すので、絶対に折れない剣で全部取り戻す

酸欠ペン工場

第1章『無名の鍛冶師と燃える村』

カン、カン、と鋼の歌が、辺境の村に規則正しく響き渡る。クライヴは黙々と槌を振るっていた。飛び散る火花が、鍛え上げられた彼の腕の筋肉を刹那的に照らし出す。村人たちは彼を「無口だが腕のいい鍛冶師」と慕っていたが、その瞳の奥に宿る深い影の理由を知る者は誰もいなかった。この静かな場所は、彼が己の過去から逃れるための聖域であり、牢獄だった。


その夜、クライヴは村に一軒だけの酒場にいた。日々の労働で冷え切った身体を、温かいエールで潤すためだ。騒がしい傭兵たちの集団が、彼の耳に嫌でも飛び込んでくる。「聞いたか?『炎剣』の話をよぉ!」「ああ、鋼の鎧さえバターみたいに斬っちまうっていう、あの魔剣だろ!」「一体どこの神業を持つ鍛冶師が打ったんだか!」その言葉に、クライヴはテーブルの下で固く拳を握りしめた。


「あんな剣を打てるなんて、まさに伝説級の職人だな!」傭兵の一人が興奮したように叫んだ。もう限界だった。クライヴは飲み干すはずだったエールを残し、静かに席を立つ。「おや、クライヴさん。もうお帰りかい?」人の良さそうな店主が声をかける。「……ああ。少し、風にあたってくる」彼はそう短く告げると、一度も振り返ることなく酒場を後にした。夜風がやけに骨身に染みた。


鍛冶場に戻っても、クライヴは眠れずにいた。先ほどの会話が、まるで呪いのように頭から離れない。その時だった。静寂を切り裂くように、甲高い悲鳴が夜空に響いた。焦げ臭い匂いが鼻をつき、彼は慌てて外へ飛び出す。村が、燃えていた。夜の闇を喰らう橙の獣が、松明を掲げた男たちの姿を映し出す。その一人の手には、不気味な赤い光を放つ、見間違えようもない一振りの剣が握られていた。


「ヒャッハー!燃えろ燃えろ!全部灰にしちまえ!」「やっぱすげえぜ、この『炎剣』はよぉ!」下卑た笑い声と共に、首領らしき男が剣を振るう。一閃。それだけで、無慈悲な炎の波が民家を丸ごと飲み込んだ。木材の爆ぜる音、人々の絶叫、炎が風を切る轟音。彼が作り出した煉獄を前に、クライヴは唇を噛みしめる。「俺の……俺の剣が……」彼の最高傑作が、今まさに目の前で牙を剥いていた。


「ママぁ!」建物の陰で、小さな女の子が泣き叫んでいる。その前に、下卑た笑いを浮かべた盗賊が立ちはだかった。その瞬間、クライヴの心の奥底で、最後の箍が焼き切れた。これは自分の罪だ。ならば、自分が終わらせるしかない。彼は鍛冶場から、特別な銘も持たない、ありふれた鉄の剣を一本掴み取った。いつもは静かな彼の瞳に、鋼のような冷たい光が宿っていた。


クライヴは炎が作る影から影へと、音もなく駆けた。女の子に迫っていた盗賊の前に、亡霊のように立ちはだかる。「あぁ?なんだテメェ、邪魔だ!」「……どけ」。凍てつくような静かな声だった。彼の全身から放たれる殺気にも似た気迫に、ならず者の顔から笑みが消える。「村人のくせに、粋がってんじゃねえぞ!」


盗賊は怒鳴りながら、手にした剣で斬りかかってきた。だが、クライヴはそれを最小限の動きで受け流す。キィン、と甲高い金属音。彼は魔法の武器など必要としない。鋼を打ち続けたその肉体こそが、彼の最強の武具だった。一瞬の隙を突き、盗賊の鳩尾に柄頭を叩き込む。呻き声一つ残して、男は地面に崩れ落ちた。


「てめえ……何者だ」。炎剣を手に村を焼き払っていた首領が、ついにクライヴの存在に気づいた。「ただの村人じゃねえな、その動き。その剣の扱い、素人じゃねえ。……まさか、お前がこいつの打ち手か?」「……そうだ。その剣は、俺が作った」「ほう!てめえがあの『無名の鍛冶師』か!好都合だ!ここで死んで、その技、俺に寄越しやがれ!」


首領との戦いは、熾烈を極めた。だが、炎剣の癖も、特性も、その全てを知り尽くしているクライヴが負けるはずもなかった。やがて最後の盗賊が倒れ、村には静寂が戻る。残されたのは、くすぶる建物の残骸と、すすり泣く村人たちの声だけだった。クライヴは取り返した炎剣を手に、焼け跡の中心に佇む。その熱が、まるで罪の烙印のように彼の魂を焼いた。「二度と……こんなことは繰り返させない」。夜明け前の冷たい空気の中、彼は固く、固く誓った。

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