第三節:閉ざされた教室! 白い少女と消えた旧生徒の記録!!
階段の扉が閉じる音が、いつまでも耳に残っていた。
それはただの物音ではなかった。まるで世界そのものが切り替わったかのような結界の封鎖音だった。
「おーい……田中口先輩? これ……どういうシナリオ……?」
菜奈が声をひそめる。
だが、田中口の顔には今まで見たことのない緊張が浮かんでいた。
「これはもう、シナリオじゃないな。ガチだ」
空間は明らかに異質だった。
教室らしき構造。だが天井は不自然に高く、窓はない。
黒板、古びた棚、埃をかぶった机――。
どれもが、“学校”の記憶を引きずっていた。
その中央に立つ、白い制服の少女。
彼女は確かに微笑んでいた。
だがその笑顔は、どこか現実と
目が笑っていない。いや、目が、合っていない。
「……あなた、“誰”なの?」
菜奈がついに問いかけた。
少女は数歩、こちらへと歩み寄る。
そして、静かに口を開いた。
「記録の中に、わたしはいないの」
意味が、分からなかった。
だがその言葉と同時に、黒板の文字が、突然動き出した。
「ひゃっ!? 黒板って、そういう生き物じゃないよね!?」
菜奈が悲鳴まじりに叫ぶ。
全員が身を引く中、黒板にはチョークで書かれたような筆致で、こう浮かび上がった。
《昭和○○年度 綾木学園 三年A組 出席簿》
名簿らしき一覧が続く。
だが、最後のひとりの名前だけが、滲んで読めなかった。
「ここって……噂にある戦後混乱期の“消えたクラス”……?」
田中口の呟きと同時に、黒板の表示がめくられるように切り替わった。
今度は写真。色褪せたクラス写真のような一枚。
その中央に、白い制服の少女が写っていた。
「これ……その子が“生徒だった”証拠……?」
菜奈がつぶやいたその瞬間、少女の姿が、写真からすうっと消えていった。
「消えた……!?」
黒板の端に、最後の一行が浮かび上がる。
『“ここにいた”という記憶を、残さないこと。それが約束だった。』
そして、少女の声が再び教室に響いた。
「でも、あなたたちは記録してしまった。だから、わたしは……」
少女の身体が、空気の中に溶けるように薄れていく。
その直前彼女は、確かに言った。
「“記録されることで、生きられるの”」
一瞬、光が弾けたかと思うと、視界が真っ白に染まった。
菜奈たちが再び目を開けたとき、そこは――。
「えっ……ここ、旧図書館……の地上階……!?」
戻っていた。
地下四階の封印空間から、元の場所へ。
装備もそのまま。記録機材も稼働している。
そして、蔵王のカメラには、白い少女の姿が、はっきりと残されていた。
「これ……今度こそ、誰にも“消せない”映像になったな」
田中口が、ぽつりとつぶやく。
その映像ファイルには、なぜか自動でこう名前がつけられていた。
《“わたしはここにいた”_final.mp4》
「……これは、あの子が最後に残した“記録”……なんだよね」
菜奈は、そう言ってカメラのモニターをそっと閉じた。
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