第五章:地下三階突破作戦! 目撃せよ、記録に残らぬ影の正体を!!

第一節:決行! 探検隊部、封印扉を再び開け!!

 春のある放課後。

 空は快晴。

 新入生は部活に汗を流し、三年生は進路指導の準備に追われる。どこにでもある、平和な綾木学園。

 だが、旧校舎・地下三階の闇の奥では、選ばれし変人たちが、再び“扉”の前に立っていた。

 ――探検隊部。

 隊長・麗佳を先頭に、ナレーション担当・田中口、映像記録・蔵王、音声&センサー担当・栂池、そして巻き込まれた一年生・菜奈。

 


「準備は万端? 今日のテーマは“突破”よ!」


 気合の入りすぎたジャンプとともに、麗佳のヘルメットが天井頭をぶつける。


「いてっ……っしゃあ! 気合入った!」


「入れすぎ。今の、天井が悲鳴上げた音だよね」


 栂池の低血圧なツッコミを受け流しながら、探検隊部は装備を整えていく。

 蔵王はアクションカムを胸元に。

 栂池は録音マイクに加え、振動センサーと電磁測定器を増設。

 田中口はサブ機材と、なぜか紅茶を準備していた。

 

「で、今日こそ“あの影”と向き合うってことで……いいの?」


 菜奈が、不安と決意が入り混じった顔で問う。


「そうよ。川口先生が“記録を残さなかった理由”を、自分たちの目で確かめるの。何が封印されたのか――はっきり見る!」


 麗佳は胸ポケットから、生徒会から託された「第零資料」を取り出す。

 表紙にはこう記されていた。


『旧綾木学園設立時 調査補遺』

 

 その中には、公式には存在しない“地下三階のさらに下”を示す手書きの地図とメモが挟まれていた。


「……地下“四階”?」


 菜奈が呟く。


「三階の“奥”じゃない。“下”なの。たぶん、あの封印扉は通路じゃなくて、“蓋”よ」


 田中口が図面を指しながら言う。


「つまり、封じられていた“何か”は、さらにその下に……?」


「そう。でも、学校の施設台帳には記録がない。構造そのものが“存在しない”ことになってる」

 

「え、ちょっと待って。じゃあわたしたち今から、“存在しない階”に突入するってこと!? ヤバくない!? 非公式なのに公式で未登録の地下構造に進入って、もし見つかったら何罪になるの!? 学校法?  建築基準法? 廃墟法!?」

 

「だいじょうぶよ、ナナちゃん。そういう部活だから。もう、今さら後戻りなんてできないもの」


 麗佳はすでに手袋を装着し、スコップとハンドライトを背負っていた。完全にお宝発掘のスタイルである。

 封印扉の前に立ち、田中口が静かに宣言する。


「探検隊部、突破作戦を開始する。記録、全系統オン。照明、機動カメラ、録音、リアルタイム記録、すべて稼働開始。よし、行こう」


 蔵王が扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。

 そこから流れ込むのは、重く濁った空気。

 湿った土と、かすかな鉄の匂いが鼻をかすめる。


 

 その瞬間、どこからともなく非常灯が灯り、通路の奥に、うっすらと“影”が浮かび上がった。

 白い制服の少女。再び現れた、“記録されない者”。

 

 だが、今回は違った。

 菜奈のカメラにも、蔵王のレンズにも――、その姿は、はっきりと映っていた。

 

 田中口が息を呑む。


「……記録、されてる」


 その言葉に、場の空気が凍りつく。

“記録できないはず”だった存在が、いま、ファイルとして残っている。

 機材も壊れていない。

 映像も、音声も、ノイズひとつない。

 

「これは……“封印”が弱まってきてるのか?」


「あるいは、向こうが“こっちに興味を持った”のかもな」

 

 そのとき。

 菜奈のスマホが、ひとりでに震えた。

 画面には、保存した覚えのない一枚の写真が表示されていた。

 封印扉の奥。“何もいないはずの場所”に、こちらを向いて、微笑む少女の顔。

 くっきりと、鮮明に。

 

 誰もシャッターを切っていない。

 それなのに、なぜかその写真は、菜奈のスマホに保存されていた。

 

「な……なにこれ……誰が、いつ……?」

 

 震える菜奈の肩に、麗佳がそっと手を置く。


 「これは……いよいよ“本物”ね。探検隊部、地下四階への突入準備に入るわ!」

 

 菜奈は、言葉を失ったままスマホを見つめていた。

 もう、後戻りはできない。

 “記録されなかった過去”と、“今、記録されはじめた未来”が、ここでつながり始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る