ある日突然に
華宮 彩春
第1話 7月21日
今日から夏休みかー。
俺はベッドの上で欠伸をしながらそう思った。
今日は、午後から部活だった。
部屋に置かれたベースを見つめて、あんま練習できてねーわ、と思った。
ベッドから起き上がり、リビングで朝食を食べる。
机の上に置かれていたのはパンケーキだった。
お母さんは、仕事に行ったのか。もう9時半だしな。
俺は手を合わせてパンケーキを食べた。
冷めていたパンケーキは別に美味しいとは思えなかった。
スマホのチャットアプリを開くと、彼女の梨々香から おはよう! と、メッセージが来ていた。
俺も、おはよー!と返し、部活だるいー と文字を打った。
まあ、部活自体だるくは無いけど、わざわざ学校まで行くのがだるい。
パンケーキを食べ終え、身なりを整え、少しベースを触る。
今回の曲はベースソロがあるので、完璧に仕上げないといけない。
しかも、ボーカルの高橋桜良(たかはし さくら)がベースソロ入る前に
「ベースソロ〜!」って盛り上げてくれるから、失敗とかしたら恥ず過ぎる…梨々香も今回のライブ見に来てくれるらしいから、気合い入れないとな
暫くベースを練習していると、ピコン!と通知がなった。
バンドのグループチャットからの連絡だった。
Minato:『今日練習終わり夜ご飯食べに行かんー?』
という、バンドメンバーの1人、宮下 湊(みやした みなと)からだった。
俺、常に金欠なんだよなぁ。
さくら:『めっちゃいいね!マグドの新作食べたい♡』
奈美:『私も行きたいです』
あー、俺以外のメンバーが満場一致してしまった…
はると:『あり』
俺は仕方なく行くという選択をした。
そして、数時間後
部活の為だけに学校の最寄り駅に到着した。
「あ、陽斗。おはよう」
後ろから話しかけてきたのは、ギターを背負った
加藤 奈美(かとう なみ)だ。
「お、奈美。おはよー」
「陽斗、ベース練習した?今日合わせるんだよね?」
「あ、あんまりっすねー…」
「だと思った」
「奈美はいつも練習してて大尊敬だわ」
部活でも、俺ら3人が喋ってる時も、奈美は黙々と練習している。
「んー、まあギター嫌いじゃないから」
奈美っぽいな、と思いながら学校へ向かった。
俺らがバンド活動する教室に着くと既に湊が一人でドラムの準備をしていた。
「おはよー湊、ドラム手伝うよ」
「おはよう。ドラム助かる」
「桜良は?」
奈美が聞く
「いつも通り時間ギリギリに来るだろ」
「もう5分後は遅刻扱いだけどな」
そう、桜良はメイクしたりマイペースだったりで学校に到着するのはいつも遅刻ギリギリなのだ。
「おはよー」
この声は。
遅刻ギリギリのお嬢が来た…
顔を見ると、いつも通りしっかり頬はピンク色に、唇はプルンプルンだ。
ちなみにメイクは校則違反。
まあ、でも桜良片思い中の乙女だしな。
「今日は5分前に来れたー!」
当の桜良は奈美に呑気に話しかけていた。
「いつも5分前に来ないとダメじゃん」
「わかってるけど、寝たいし…」
「いや今日の部活は昼からだろ!?」
「何時まで寝てるんだよ」
「まあいいや、早くマイク準備して合わせしよ」
俺はあんまりベース練習してないのにしっかりリーダーとして仕切っちゃってるし…
「報酬は入社後 平行線で〜」
桜良、マイク持てば人変わるレベルで歌上手いし…
「最初ドラム入れてかっこいいかつ迫力あった方が聴きごたえあるよね」
湊は飄々としてると思えば、1番熱血だし…
「いや〜ここはエフェクター使った方がカッコイイと思わない?」
奈美は更なる高みを目指してるし…
いや俺も頑張らんとな…
「陽斗のベースソロもうちょい音量上げてもいいよね」
練習終わり、桜良が満足そうにマグドの新作のバーガーを頬張りながら言う。
「音響係に任せるしかないね」
湊もポテトをつまみながらそう言った。
「俺マジでベースソロ極める」
「おー言うねぇ」
「言うねぇ!」
湊と桜良がニヤニヤとこちらを見て来る。
「なんだよ!」
「いやぁ〜、偉い偉い」
「陽斗も成長だな〜」
この2人、マイペースな上によく煽ってくるから本当に苛立つ。
「お前ら覚えとけよ!俺次の練習で見違えるほど上手くなってるから 」
「ふふふ」
ここで奈美が笑う。
まあ、こんな日常も悪くないのかもしれないし、こんな日常が続くと思っていた。
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