メゾン三角
六散人
【01】<三角第一マンション>の住人達
都内の外れにある鉄筋コンクリート建て、築58年の<
文字通り都内に幾つもの賃貸マンションを経営するオーナーの姓である、<三角>を最初に冠した由緒あるマンションである。
建物は5階建て、高さは30.5mと、建築法によるエレベーター設置義務を辛うじて免れている。
つまり<三角第一マンション>にはエレベーターがない。
敷地面積は33平米と、各階に漸く一部屋が設けられる広さの、所謂ペンシルビルだ。
101号室の住人は
8年前より<三角第一マンション>の管理人を、オーナーから委託されている。
彼の性格は狷介の一言に尽きる。
非常に不愛想で、極端に無口なため、恐らく年に数語しか口にしないのではないかと噂されている。
その人となりの難しさが原因で60歳まで職を転々とし、務めた職場の数は優に200を超え、当然のことながら本人も勤め先の名を殆ど憶えていない。
近隣住民やマンション住人との交流は一切なく、道で会っても勿論挨拶などしない。
外出は必要最低限で殆ど室外に出ず、一日中テレビを見ている。
特にお笑い番組が好きで、時折ビルを震わす程の大きな笑い声を上げることがある。
201号室の住人は
名前と見た目からは性別不明だが、おそらく女性と推測される。
職業はビルの清掃員で、週5回勤務。
その僅かな収入と老齢年金で、かつかつの生活を送っている模様。
性格は猜疑心が強く、かなり強欲。
その上無類のパチンコ好きで、近隣のパーラーの上客となっている模様。
コロナ禍の折にはビル清掃の仕事が激減し、パーラーも休店を余儀なくされていたため、生活苦とパチンコに行けないストレスで発狂寸前までいったとの噂がある。
上下階の住人との関係は最悪。
特に301号室の住人とは、顔を合わせると互いに殺意を向け合う程険悪な状況である。
対立の原因は301号室の住人の帰宅時間が仕事柄深夜に及び、酔って大声を上げることが頻繁であったため、鹿がそれに立腹していることである。
その仕返しとして、定期的に早朝部屋を訪れて相手を叩き起こすため、互いの怒りが増幅し、殺意にまでヒートアップしているのだ。
同じ理由で、時折常識外れの大きな笑い声を上げる、管理人の
その感情が会った時に巌にも露骨に伝わり、年々関係が悪化している。
301号室の住人は
近隣にある繁華街で小さなスナックを経営している。
彼女は度外れた大酒のみで、毎日浴びるように飲酒している。
仕事中はおろか、閉店後も近隣の店で飲み歩き、店の売上のかなりの部分をつぎ込んでいる模様。
加えて酒癖が極端に悪く、酔うと所構わず大声で喚き散らすため、近隣では有名になっているらしい。
連日の大酒と絶叫によって寅江の声帯は潰れ、発情期のトドのような声を出すことが特徴である。
上下階の住人との関係は最悪で、互いに殺意を向け合う程になっているが、常に酩酊状態に近いためか、寅江自身は相手が自分に敵意を向ける原因を、容易に忘れてしまう傾向がある。
しかし当然のことながら相手はそれを忘れておらず、その怒りは日々エスカレートして、寅江に対する殺意にまで昇華されつつあるのだ。
401号室の住人は
元三段目力士で、怪我のため13年前に大相撲を引退した。
その後所属部屋の後援会長の好意で、<三角第一マンション>と近隣繁華街にある、ちゃんこ料理店を紹介され、現在に至る。
引退後も体重は増加する一方で、現在推定190kgに達しつつある。
そのため4階までの階段の上り下りが年々困難になって来ていて、特に上りでは自室に到達するまで30分以上を要するようになりつつある。
そして就寝後はいびきが凄まじく、近隣に鳴り響くような轟音を夜な夜なまき散らしている。
一方過度の肥満による睡眠時無呼吸症候群により、眠りが極端に浅いため、301号室の
その結果寅江との間で諍いがしょっちゅう起きているのだが、肥満によって松太郎の声帯は寅江同様に潰れており、その声は巨象の咆哮のように聞こえる。
従って二人の間の言い合いはさながらトドと象のがなり合いの様相を呈しており、周囲の人はおろか、争っている当人同士も、相手が何を言っているのか全く分からない状態で展開されるのだった。
501号室の住人は
大学中退後、ずっとフリーターを続けており、定職に就いたことがない。
そのため以前住んでいた賃貸住宅の家賃が払えなくなり、格安の<三角第一マンション>に引っ越して来た。
性格は至って温厚で、入居後マンション住人達との間でトラブルは一切ない。
一方でかなり図太い面があり、直下の401号室から夜な夜な響いて来る
ただ大学を中退したことや定職に就かないことでも分かるように、性格がかなりルーズでズボラな面があるのは事実である。
この様に住民同士の間で一触即発状態にあった<三角第一マンション>において、ある日遂に悲劇が起きたのである。
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