第8話 迫りくる刃、ガス灯の陰で

警官隊を木刀でやり過ごし、難を逃れた桂小五郎は、夜の帳が下りた東京の街をひっそりと歩いていた。

ガス灯がぼんやりと照らす暗い路地裏。

背後から忍び寄る気配には、もう慣れっこになっていた。


(やはり、あの男は諦めてはおらんか…)


物音一つしない静寂を切り裂き、鋭い刃の風が桂の背後を襲った!


「桂小五郎!覚悟しろ!」


紛れもなく、土方歳三の声。

研ぎ澄まされた刀身が、月明かりを僅かに反射し、ギラリと光る。

間一髪、桂は身を翻し、懐に隠し持っていた仕込み木刀を抜き放った!

一見ただの木刀だが、その内部には、寸鉄ながらも鋭い真剣が仕込まれていた。


土方の渾身の一撃を受け止めようとした瞬間、桂は咄嗟に木刀を僅かに滑らせ、空洞の中から真剣をチラリと覗かせた。

「…!」


土方の鋭い眼光が、その一瞬の光を捉えた。ただの木刀ではないと悟った土方は、僅かに動きを躊躇する。


その隙を突き、桂は身を低くして土方の懐に入り込もうとする。

ガス灯の頼りない光が、二人の影を地面に揺らし出す。

静まり返った路地裏で、宿命の対決が再び始まろうとしていた。



ガス灯の下、宿命の激闘

夜の帳が下り、ガス灯の淡い光が揺れる東京の路地裏。

風が吹き抜け、枯葉がカサカサと音を立てる中、桂小五郎と土方歳三、二人の間に張り詰めた空気が満ちていた。

土方が放った渾身の一撃は、確かに桂の仕込み木刀で受け止められた。

キィン、と真剣が木刀の奥で小さく鳴る。

土方は一瞬、桂の仕込みを見破ったことに驚きの表情を見せたが、すぐにその鬼のような顔に戻った。

「小賢しい真似を!池田屋の借りは、その細工物で果たせると思うな!」

土方の刀が、まるで生き物のようにうねり、桂へと迫る。

それは、新選組副長として、幾多の修羅場を潜り抜けてきた男の、本物の殺気と技そのもの。

一撃、また一撃と、容赦ない斬撃が桂の全身を襲う。

桂は、その全てを紙一重でかわしていく。土方の剛剣に対し、桂の剣は柳のようにしなやか。


わずかな重心の移動、体のひねり、足捌き。

無駄のない動きで土方の刀をいなし、受け流す。

仕込み木刀のわずかな重みが、かろうじて土方の猛攻に耐えていた。

しかし、刀身が木刀の空洞の中で不規則に暴れ、手のひらに痺れるような衝撃が走る。


「くっ…!」


土方の刀が、桂の頬を僅かに掠めた。

冷たい感触が走り、生暖かい血が流れ落ちる。

桂は眉一つ動かさず、さらに後退しながらも、隙を伺い続ける。


(この男の剣、幕末の頃よりもさらに研ぎ澄まされておる…!)


土方は、桂の動きのしなやかさに苛立ちを募らせる。

いくら斬り込んでも、まるで掴みどころのない霧のようである。


遂に業を煮やした土方は、一歩踏み込み、渾身の袈裟斬りを繰り出した!

刀はガス灯の光を鈍く反射し、桂の頭上めがけて振り下ろされた。


その瞬間、桂は捨て身の覚悟で、仕込み木刀の真剣を最大限に引き出した!


ガキィィン!


鋼と鋼がぶつかり合う、耳をつんざくような甲高い音が路地裏に響き渡る。

火花が散り、二人の顔を赤く染め上げた。


「ほう…やるじゃねぇか、桂ァ!」


土方はニヤリと笑ったが、その笑みはすぐに消えた。

桂の真剣の切っ先が、土方の喉元すれすれを掠めていたからである!


あと一寸、土方の体勢が崩れていれば、首筋に致命傷をに、詰寄って来ていてたのだ!!


木戸孝允が。


否。


に向かい合うのはあの日幕末の激動期以来である。


二人は、再び間合いを取った。

土方の呼吸は荒く、額には汗が滲み出る。桂もまた、仕込み木刀を握る手が震え、疲労の色が濃くなったが、何故か


この夜の激闘は、まだ始まったばかりである。


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