胸キュン王国・王子たちの力作、ありがちな乙女ゲームは大失敗
かつおぶし
第4話 王子様の手伝いを頑張りますか
「『胸キュン』なら、俺が欲しいわ」
黴臭い布団から抜け出て窓を開けると、ひんやりとした夜風が頬を掠めた。
「あーあ、ホント馬鹿だったよなー。まあ、けど、鮪は美味かったし。無料で食わして貰ったんだから、もー、いいけどな。俺が金欠で困ってる時は、わざわざ魚を送ってくれるしな。しかも、ご丁寧に米と醤油まで入れて。あの旦那、人が良過ぎだろ。大丈夫か?」
おそらく、初対面で、旦那の方は気付いただろう。
小羽の初恋相手が、自分の妻だという事に。
それでも、あの男は何も言わなかった。今では友人のように接してくる。
小羽の仕事を軽蔑せず、心から応援してくれる。
「まあ、お似合いだよ」
そう呟いて、静かに窓を閉めた。
翌朝になると、気持ちは大分落ち着いていた。
朝食を済ませると、自分に言い聞かせるように言った。
「さて、王子様の手伝いを頑張りますか」
こういった経緯で、四月八日、小羽は、
入学式当日の朝は、洗面台の罅割れた鏡に向かって、にやけてしまった。
「これぞ完璧な美貌!!顔だけは一流だ。皆、俺に『胸キュン』しちゃうかもなぁ。加えて頭脳明晰で独身という設定だ……独身は事実として……まあ、頭脳は人並みだな……けど、顔は良いんだ!これで騒がれない筈がない!!十中八九、女子にモテモテだぞ!!そうなったら困るなぁ」
実際、小羽は、誰が見ても見誤ることのない美男子だった。
自信満々に意気込んだが、現実は違った。
小羽が、現役の泥棒妖術師だと知る者はいない。
表向きは有名大学を卒業したばかりの男性教諭だ。
そして、物凄くドジだった。その上、腰抜けである。
赴任して一カ月が経っても、小羽は、一向にモテなかった。
顔が完璧でも、もともとの性格は引っ込み思案で臆病なのだ。
先生になっても、それは通常通りで、消極的な態度は変わらなかった。
極度の人見知りなのだ。
今日も今日とて朝から、おどおどしっっぱなしで、放課後の廊下で擦れ違う女子生徒たちから「先生、さようなら~」と次次に挨拶されても、緊張で飛び退いたり猛ダッシュで逃げてしまった。
朝の挨拶も同じで、生徒の目を見て「おはよう」と言えた試しがない。
日に日に不甲斐なさが浮き彫りになったが、実は赴任して三日と経たずに「美形だけど、うじうじして頼りない、はっきりと物を言えない残念な先生」と認定されていたのだ。
それを知った小羽は、すっかりやる気も自信も失くして落ち込んだ。
「きっと校内で、少女たち相手に美形オーラを全開にしちゃいけないんだ。そうだ、肩に力が入っているから、上手く笑えないんだ。自分らしく行こう!」
そう思い込んで、見事に失敗した。
ボサボサの天然パーマは、ツバメの巣のようになって、服のセンスは、評価の仕様がない姿に変わってしまった。
毎日同じ服装で、よれよれの色褪せた灰色のTシャツを着るようになった為か、まるで濡れネズミのようだった。
更に、けばけばしいほど赤いジーパンを履いて、白衣姿で登下校し始めた――流石に、これは校長先生に注意されたので、所々破れたジーンズに変わった――が、こういった理由から、更に『胸キュン』から遠ざかったのである。
そして、これだけ不器用な男が、自分たちのサポート役だと聞かされた時、三人の王子は驚いた。
軟弱男との顔合わせの前に、泥棒学会の会長から直々に説明を受けた王子たちは呆気にとられた。
しかし、話を聞くうちに、ショーンは次第に目を細め、終いには腹を抱えて笑い始めた。
「何が面白いんだよ!前途多難だ!」
ロトンが吠えると、ミロンも神妙な顔つきで頷いた。
「全くです。さて、どうしましょう。私たちの方が、サポート役に回りそうですね」
「足手まといは要らないぜ。御守りは御免だ」
この遣り取りを聞いていた会長が、申し訳なさそうに両手で白い髭を撫で付けると、ぺこり、ぺこりと懸命に頭を下げた。
「大変申し訳ありません。本当に申し訳ありません。現在、若手で玄人の連中が任務で離れておりまして……年配の者共は、皆、五十を越えております故に、採用されませんでした」
(下界は、世知辛いな。そいつらの方が、よっぽどマシだ)ロトンが、顔をしかめて胸中で嘆いた。
「見目が良く歳も若い者は、あやつしか残っておらず、又ちょうど養護の先生を探しているとの事でしたので、あやつが、ぴったりでした。怪我の手当だけは文句なしですので、辞めさせれる事はないでしょう。その点は、御安心下さい。天気の移動術も存外たけております。台風そのものを移動させる程度の実力はありますので、その点も御安心下さい」
そこまで早口で捲し立てていたが、急に口調がたどたどしくなった。
「ただ……えー、あの、困った事に、大変ドジでして……その、えー、移動場所を取り違える事が、非常に多いのです」
しんとなったのは、取り違えと聞いた時である。
そこが、重点ではないのかと、ロトンとミロンは頭を抱えた。
しかし、ショーンは、嬉しそうに勢いよく椅子から立ち上がって言った。
「いいね。楽しくなって来たよ。さあ、会いに行こう!僕らの駒に」
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