6話

 扉の向こうにはぽつんと一つ、金属製の小さな箱が置かれていた。

 箱は無機質な光沢を放ち、冷たく、しかし存在感は圧倒的だった。

 峻は一歩踏み出し、じっと箱を見つめる。

「何だ、この箱は?」

 躊躇いが胸をよぎる。指を伸ばし箱の表面をなぞった。

「鍵はかかっていないみたいだな…。」

 陽菜乃は手を握りしめ、小さく唇を噛んだ。

 その目はわずかに輝きながらも、不安の影を宿している。

「どうする? 開けてみる?」

 彼女の声は軽やかだが、震えが隠しきれない。

 峻はしばらく沈黙し、やがて決意を込めてハッキリと言った。

「…開けよう。」

 陽菜乃は驚いたように目を見開き、すぐににっこり笑った。

「その意気よ、峻」

 彼は覚悟を決め、ゆっくりと箱の蓋を開けた。

 中からは、古びた真鍮の鍵と一枚の紙切れが現れた。そして箱の蓋の内側には文字が刻まれている。

『光の源に飛び込めば門は開かれる』

『光源』『飛び込む』『門』一体、何を意味しているのだろうか?

 陽菜乃はそっと鍵を手に取り、撫でながら言った、

「すごく古そうね、この鍵。」

 峻は紙切れを広げ、そこに書かれた文字を読み上げる。

『選択の時は、黄昏に訪れる』

 陽菜乃は眉をひそめ、意味を探るように呟いた。

「黄昏って夕暮れよね。これが何を意味するのか…」

 峻は紙をじっと見つめながら、やがて口を開く。

「よくわからないが、ここで終わりじゃないって事だ、俺たちはまだ、進まなきゃならない」

 陽菜乃は静かに頷いた。

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