第4章 始まりの場所へ

8話

 気が付くと、電車の座席に座った状態で、峻は目を開けた。揺れる車内、窓の外には夜の街並みが流れている。周囲はいつもと変わらない帰宅客たちの疲れた表情。戻って来れたんだ…。胸を撫でおろし安堵のため息をつく…。

「陽菜乃?」

 陽菜乃の姿が無い。周囲を見回したが、見当たらない。

 …置いてきてしまった。

 さっき光の中に電車が見えたとき、俺は無我夢中で走った。その時、陽菜乃の事は頭に無かった。情けない…。自分の幼稚さに嫌気がさした。だが、この反省を無駄にしない。あの時、陽菜乃も光に飛び込んだのだろうか?どうかそうであってほしい、そして自分の入り口に無事戻っていてほしい。

 峻が後悔にさいなまれた気持ちがようやく収まったころ、周囲の異常さに気がつく。

 乗客たちは一様にスマホを持ち、画面を凝視している。指で操作する事もなく、ただ空っぽの目で画面を見つめているだけ…。

 不気味な静けさが車内を包んでいる。

 やがて電車がホームにつくと、峻は慌ててホームに降り立った。そこには、見慣れた街灯や歩道の風景が広がっていて、気持ちに安堵が広がった。峻は足早に家路を急いだ。

 家に着くと、ドアにしっかり鍵をかけ、テレビをつけた。ザーッという砂嵐が画面いっぱいに広がって、リモコンを押しても、何も映らない。

「…ふざけんなよ」

 声を押し殺してつぶやき、諦めてテレビを消した。

 布団に倒れ込むと、疲れていたせいか、そのまま意識が沈んでいった。

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