19.夜明け -託実-




3月。


雪貴の卒業を待って、

行われる第2期Ansyal始動。



雪貴の卒業式と同じ日に、全国一斉に販売させた

最新アルバム「星空と君の手」。



百花の描いた絵画を表紙のジャケットに、

中の冊子に至るまで、百花の絵を取り入れて完成させた1枚。


メンバーの名前には、既存のAnsyalメンバーにプラスして

新たに、隆雪の名前を刻み込む。



specialThanksと綴られた、一番最後には

メンバーそれぞれを支え続ける彼女の名前を刻み込む。



俺に至っては、

百花・満月・理佳と三人の名前を刻ませて貰った。





発売日当日から沢山、各店舗に流通する新譜。


系列店舗から、売れ行き情報の速報を随時聞きながら

俺たちは、再始動に向けての最終調整に入る。





LIVE当日。




待ち合わせをしたわけでもないのに、

それぞれが姿を見せたのは、隆雪が眠るお墓。



宮向井家と綴られた、先祖代々が眠り続けるその場所で

静かに眠りについた隆雪。




ゆっくりと日の出が始まるそんな時間に、

俺はこの場所を訪ねていた。





「あれっ、託実さん。

 来てくれてたんですね」


「まぁな。

 百花と満月はまだ朝は寒いから、休んで貰ってるけどな」


「おはようございます。

 託実さん」


「おはよう、唯香ちゃん」




隆雪のお墓の前、出逢う雪貴と唯香ちゃん。


二人は、手にしてきた花束を素早く花筒にセットしていく。




「なんや皆、朝早すぎるやろ」



そんなことを言いながら姿を見せるのは、十夜。

十夜の後ろには、荷物を持った憲が控える。




「おはよう、十夜・憲」


「おはようございます。

 僕だけだと思ったのに、皆さん考えることは同じなんですね」



最後に姿を見せたのは祈。





宮向井家のお墓の前、

十夜がいつもの様にアイテムを並べて、シェーカーをほ操る。


水色の液体がグラスに注がれて、

隆雪の眠る前へと供えられる。




「あぁ、他のメンバーはアルコールなしな」



そう言いながら次から次へとノンアルカクテルをグラスに作り続けると、

その場でグラスを手に持って、墓石を囲むように半円に立つ。




「兄貴、遅くなったけど今日から兄貴がずっと大切にしてきたAnsyal

 もう一度、始動させるよ」


「あぁ、待たせたな隆雪。

 今日からまた一緒に行こうな。


 んじゃ、第二期Ansyalに乾杯」



一斉に乾杯コールをしてグラスを飲み干すと、

憲が空になったグラスを鞄の中へと次々と片付けた。



んじゃ、次は会場で。





早々にお墓の前で解散して、俺は一度自宅に戻ると

百花と満月、理佳の写真を手にして再び移動する。



スタジオの方で軽く音を出してウォームアップを終えてから、

会場へと向かう。



まだ開演まで何時間もあると言うのに、

すでにコスプレ姿のファンたちが、会場周辺には集まってきている。



そんな中会場入りをして、リハーサル。

メンバーと相談しあった、セットリストを追いかけるように

第一部、第二部の演出を念入りに打ち合わせていく。



第一部は、隆雪を中心としていた懐かしいAnsyalとして。

雪貴も、隆雪の演奏の仕方を辿る形で隆雪を意識して音作りをしてくれる。


少し休憩を挟んで、アンコールの後から始まるのは新生Ansyal。



メンバーの衣装も髪型も新調して、

誕生する新生Ansyalの形。



そこには隆雪の音ではない、

雪貴自身の純粋なサウンドが会場内を包み込んでいく手はずになっている。





そして最後に十夜によって仕組まれているのは、

唯香ちゃんをステージにあげた、雪貴の公開プロポーズ。




準備は万端。

後は衣装に着替えて開演時間を待つばかり。





今まではずっと一人だった楽屋も、

今は百花と満月の笑顔を近くで感じる。





楽屋に目を見渡すと、何人かのメンバーの彼女が姿を消していた。




「あれっ、唯香ちゃんは?」


「あぁ、唯ちゃんは渡した神番チケットもってドセン」


「まぁねー。

 やっぱり、唯香は向こうに行きたがると思ってた。


 私も満月がもう少し大きかったら、向こう側に行くんだけど今はここで成功を見守る」


「そうだな。

 俺はこっちに居てくれて安心してるよ」


「唯香ちゃんの傍には、晃穂がついてるから安心するといいよ」




そう言って、憲さんが自分の彼女の名前を紡ぐ。




「なら来夢。後は、百花ちゃんと満月ちゃん頼んだで。

 そろそろ時間ちゃう?」


「んじゃ、そろそろいきますか」



十夜のコールで、一斉にドアの方に向かって移動を始める。

楽屋の時計に視線を向けて、俺は出陣コールをかける。



それと同時に、スタッフが「準備お願いします」っと迎えに来る。




それぞれに気合を入れて楽屋からステージ袖へ。



ステージ袖で、スタッフと一緒に円陣を組んで気合をいれると

そのまま一人ずつ、ステージへと続く階段をのぼっていた。






光かの羽根が降り注ぐステージ。


幻想的に空間を彩る、overtureのサウンド。





過去と未来。


終焉と再生。


永遠の架け橋。





架け橋は、唯香ちゃんと雪貴だけじゃない。





俺にとっても、

夜想曲の意味合いを込めて。






ファンコールが漂う中、憲・祈と順番に光の世界へと吸い込まれていく。




俺が登場する出番になると、「託実ぃー」っとメンバーコールを叫ぶ

ステージ袖の百花。






光の中、サンダーバードを抱えてステージへ向かう俺。






ステージから望む、光の向こう側。




理佳と隆雪が優しく微笑んだ気がした。









溢れんばかりの声援と歓声の中で、

俺自身の長い長い夜が今、ゆっくりと明けていく。






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