9.予定外の再会 -百花-
AnsyalFCファンクラブ旅行。
TAKAと100万ドルの夜景を一緒に見れた
親友の唯香と違って、イベントでは散々だった私。
だけど……そんな私も夢のような時間が過ごせた。
深夜、買い物帰りにホテルの前で会ったのは託実。
そのまま託実に誘われるままに、
私は託実の宿泊する部屋へとお邪魔して
ティータイムをして、託実の唇が……私の唇にふんわりと重なった。
嬉しかった……。
だけどそれと同時に、そのキスの意味を「否定」されるのが怖くて
シンデレラの靴宜しく、購入した戦利品の全てを託実の部屋に忘れて
私は唯香と同室の部屋へと走り去った。
香港から日本に帰る道程、
唯香は何処となく元気がなかったけど
2泊3日の強行軍。
「疲れちゃったんだよね」なんて解釈して
私も披露感たっぷりの体を、飛行機のシートに預けた。
FC旅行が終わったら、
Ansyalは全国ツアーが始まる。
8月9日 札幌公演
8月13日 福岡公演
8月15日 広島公演
8月16日 松山公演
8月17日 神戸公演
8月18日 大阪公演
8月19日 京都公演
8月20日 名古屋公演
8月21日 金沢公演
8月23日 新潟公演
そして今回のツアーファイナルとなるのが
8月31日 東京公演。
唯香の予定は学校の仕事の関係でさっぱりわからなくて、
チケットは取れていないんだけど、私的には
神戸・大阪・京都・名古屋そして最終日の東京と
五公演のチケットを手に入れてる。
手元にはチケットがあるのに、
託実に逢うのが怖くて、会場には足が運べないでいた。
香港から帰って来て私は、
託実から逃げるように、祖父の職場で仕事に没頭する。
デパートの催事スペースを借りて行われる
ギャラリーにも率先してスタッフとして参加した。
あの日、託実の部屋に忘れた買い物袋は、
今も手元には戻らない。
食料品なんて一切入ってないけど、
あの中には……香港で購入した雑貨やお洋服が沢山入ってたんだけどな……。
散財しながら手に入れた戦利品は、
落ち込んでる私を上向きにさせてくれたものたちだから
戻ってきてほしい。
そう思う気持ちと……、LIVE会場に足を伸ばして
うまく託実に逢えたとしても、託実から戦利品たちを返して貰えたとしても
『遊びだった』って言われてしまうのが怖い。
託実は……芸能人。
託実には沢山のファンがして、
私はその中の一人でしかないのは知ってる。
だけど……託実の唇が触れた
初めてのキスくらい……夢を見続けたいから。
託実がお祖父ちゃんの画廊に買い物に来て、
託実が私の絵を買ってくれて……託実のホテルでキスをした。
非現実的な夢のような出来事だけど、
私にとっては大切な……憧れの君との大切な記憶。
そんなことを思いながら、
私は香港で手に入れた、サイン入りの未発表楽曲を聴きながら
夜は静かにキャンパスに向かう。
託実から貰ったその曲で浮かんだ感情のままの星空を
真っ白いキャンパスに乗せていく。
その曲名は『星空と君の手』。
Ansyalが今のメンバーになる前に作曲されていた
インディーズ時代からのLIVE限定サウンド。
そんな貴重な曲を聴きながら、あんなに筆が進まなかったキャンパスには
順調に色がのせられていくいく。
キャンパスいっぱいに描くのは、満天の星空。
星空にはAnsyalのイメージである天使の羽をふんわりと散らして
その先の世界に、ゆっくりと手を伸ばしてるそんな絵が思い浮かんで
必死に夜はキャンパスに向かい続ける。
何もしていないと、託実のことを考えてもやもやしてしまうけど
仕事を必死にしてる時と、こうやって絵を描いている時だけは
無心になれる。
その合間合間に、もしかしたら唯香がツアーに参加してないかと電話をしてみるものの
親友とは一切音信不通。
だけど唯香も社会人。
私も社会人。
学生同士のきままな時間じゃないんだからっと
最近、春から五カ月近く経って諦めにも似た感覚で受け入れた
今の親友との距離の形なのかななんて、それ以上は介入しなかった。
8月20日。
私がチケットを手に入れた公演も今日をいれて残すところ2日。
携帯からAnsyalのオフィシャルサイトにとんで、
メンバーたちが交代で綴ってるBLOGを覗く。
会場の雰囲気だけをブログ経由で楽しみながらも、
その日もLIVE会場には足を向けられなかった。
お休みを貰っていたにもかかわらず、急きょ仕事に出て
その帰り道、唯香のマンションに押しかけてみようと心に決めた。
居なかったら居なかった。
居たら……一緒に久しぶりに遊ぼう。
親友なんだから……
やっぱり寂しくなった時は傍に居て欲しい……。
声が聴きたい……。
仕事を早々に終えて、愛車で何度も通いなれた
唯香のマンションへと向かう。
マンションの来客用駐車場に車をとめて、
唯香の部屋へと続く階段をかけあがる。
部屋の前、チャイムを鳴らして唯香の反応を待つ。
一度目チャイムを鳴らしても反応はない。
だけど唯香の部屋は、
防音室が完備された音楽家の為の1DK。
外には漏れてこないけど、
ピアノを演奏してるのかもしれない。
そんな風に思った私は、
その後も、二度・三度といつもと同じように
チャイムを鳴らし続けた。
何度目かのチャイムの後、
「はいっ……」っと弱々しい唯香の声が
スピーカー越しに聴こえる。
「良かった……。
唯香、生きてた……入るから開けて」
唯香の弱々しい声が気になりながらも、
唯香の声を聴けたことに安堵する。
「ごめん。 動けない」
そうやって会話を切り返す唯香。
夏風邪でも引いて体調崩してるのかもしれない。
そんな風に思いながら、
「了解。
鍵使って入るからね」
っと切り返して私は鞄から預かってた
唯香の部屋の合鍵を使ってドアを開けた。
唯香は一人暮らし。
大学時代にもインフルエンザで音信不通になって
動けなくなってところに遭遇して、入院コースにまでなった。
それ以来、音信不通になった時に部屋を覗けるようにと
鍵は託されたものだった。
ドアを開けて、びっくりしたのは
カーテンを閉め切った真っ暗な部屋。
部屋中に充満するアルコール。
「お邪魔します」
声を出してスタスタと入る部屋。
足元には、何かが散乱してる感覚が伝わる。
カーテンの方に向かって、
素早く開くと、眩しい光が映し出す唯香の部屋の惨状。
眩しい光が映し出した部屋の惨状。
部屋中に散らばった
アルコールの空き缶・空き瓶。
そしてグランドピアノの下、布団を敷いて
生きた屍の様にぐったりとなってる唯香。
「唯香っ!!
何してんの。アンタは」
ってか……唯香……。
まぁ、私も唯香のこと言えないけど……。
なんて私も似たようなことをした経験があるため、
似たもの同士だなーなんて思いつつも、
とりあえず身の置き場を作ろうと、床に散乱した空き缶を回収していく。
「ご飯は?」
部屋を片付けながら、問いかけるも唯香は黙ったまま。
唯香の場合は、
ご飯を食べてたら「食べてる」って答えるのが通常。
無言ってことは……。
「もう。
ホント、唯香ってわかりやすいよねー。
行動が」
食事もせずに、
アルコールだけ煽って屍になってた……って。
もっと早く気が付いてあげればよかった。
そう言えば、香港から帰ってくる時から元気がなかったのに……。
そんなことを思いながら、
少しでも何かを食べさせないとと考える。
だけど唯香はご飯を何日も食べてなさそうで、
飲んでいるのはアルコールだけ。
とりあえずポカリを温めて飲ませたらいいかな?
っと自分の熱中症対策に鞄に忍ばせてあったペットボトルを取り出して
マグカップに注ぐとレンジで軽く温める。
唯香はグランドピアノの下から這い出して、
壁に持たれるように座ると、
マグカップを両手で受け取って、口元に運ぶものの
ポカリですらうまく飲めなかった。
口元から服の上に零れ落ちるポカリを
近くにあったタオルに吸収させる。
僅かに飲み込んだと思った飲み物も、
急に立ち上がったかと思うと、トイレに駆け込んで
吐き出してしまう。
「唯香。
何時から、この状態?」
そんな親友の状態に思わず声を荒げる。
唯香は何も言葉を発しないままに、
首だけを左右に揺らした。
構うなって。
「もう。
バカなんだから」
それだけ告げると、唯香の手荷物と自分の手荷物を持って
唯香を支えながら立たせると、
自分の愛車へと誘う。
助手席に座らせて、ゆっくりと車を走らせて向かうのは
唯香の自宅近くの救急指定病院。
もう夜だから殆どの病院は診察時間が終わってる。
神前悧羅大学医学部付属病院。
私にとっては、
お姉ちゃんが亡くなった苦手意識の強い病院だけど、
今はそんなこと言ってられない。
キュっと締め付けられるように痛む心を押し殺して
今は唯香を助けたい一心で、
大学病院へと車を走らせた。
「百花、もういいよ。
私に構わなくても」
そこに唯香がいるのに、
心は閉ざされて何もうつさない。
そんなに唯香の状態に、
遠巻きに見た理佳お姉ちゃんの姿が重なる。
震えそうになる体と必死に向き合いながら、
車を目的地へと走らせ続けた。
唯香を助手席に残したまま、
車椅子の手配と、窓口で受け付けを先にしようと
私は車を飛び出す。
唯香の鞄から「ごめんなさい」っと小さく呟いて
財布を取りだすと、そこには診察券と保険証を見つける。
それを出して、受付を済ませると車椅子を借りて
慌てて車へと向かった。
助手席のドアを開けて、唯香を抱えて
車椅子へと移動をさせようと必死になってた私に
少し年齢の高い男性が声をかける。
「君、動かさないで」
その人はそう言うと、唯香の傍に寄って
脈を確認したり状態を見る。
お医者様なのかな?
そう思ってると、すぐに携帯を取り出して
何処かへと電話した。
「お疲れ様、宗成です。
悪いが裕真を第一駐車場に」
そう言って短く電話を切ると、
その人は軽々と唯香を助手席から抱き上げると
お姫様抱っこのまま、建物の中へと連れていく。
空っぽの車椅子を押しながら慌てて中についていくと、
そこには白衣姿の人が二人駆けつけてきて、そのまま唯香を抱き取ると
何処かの部屋へと駆け出していった。
「この車椅子は受付に返しておくよ。
私は用事があって処置には加われないが、
彼女と共に行動するといい。
左近くん、彼女の案内を頼むよ」
そう言うと唯香を最初に助けてくれたお医者様らしき人は、
車椅子を受付嬢に預けて、エントランスから出ていく。
「どうぞ、ご案内します」
そう言われて彼女の後ろをついて歩く病院内。
エントランスの入り口には、
昔と変わらないグランドピアノが一台。
闘病生活を続けながら、何時しか弾くようになってた
お姉ちゃんの演奏してたピアノを横に通りすぎて、
奥の方へと連れられていく。
「患者さんのお名前は?」
「緋崎唯香です。
私は、唯香の親友で喜多川百花っていいます。
暫く音信不通で連絡が取れなくて、今日気になっていったら
こんな状態で……。
唯香、助かりますか?」
縋るように看護師さんの訴えかける。
「こちらで暫くお待ちください。
処置室の応援に入ります」
看護師さんは落ち着いた感じで、
私に一礼すると扉の向こう側へと消えていく。
再び扉が開くまでの間、私は自分の体を両手で
きゅっと抱きしめるように時間をやり過ごした。
私にとっての長い時間過ぎた頃、
肩に触れられる指先に、ビクっと体が硬直する。
「貴女、大丈夫?」
優しく問いかけられる声に、視線をあげると
何時の間にか処置室から出てきた、看護師さんが気遣う様に覗き込んでた。
「あっ、大丈夫です」
「でも顔色が悪いわよ」
「えっと……私、昔から病院が苦手で。
だからだと思うんで。
唯香は?」
「お友達は、暫く入院して様子を見ることになりました。
貴女も病室に顔を出されますか?」
「はい」
そう言うと看護師さんに連れられて、唯香が眠るストレッチャーの後を追いかけていく。
エレベーターに乗り込んで上の階へ向かうと、
唯香はナースステーションより、少し離れた病室へと運ばれた。
距離は離れていても、その部屋は個室。
「あの……個室って高いんじゃ?
唯香、一人暮らしなんです」
「裕真先生の判断ですから、
その辺りは私にはわかりかねます。
それでは何かあれば、ナースコールを押してください」
唯香をストレッチャーからベッドに移動させて、
他のスタッフがストレッチャーを運び出すと
看護師がゆっくりとお辞儀をして病室を出ていく。
暫くすると入れ違いで、
白衣を着た別のお医者様らしき人が病室を訪ねてくる。
「こんにちは。
少しお邪魔しますね」
そう言ってその人は唯香の傍に行くと、
静かに何かを確認するように状態を診て
ゆっくりと微笑んだ。
「唯香さんの主治医を受け持つ伊舎堂裕です。
少し席をはずしておりましたので、
救急処置は別の医師が担当したのですが」
そう言いながら、唯香の主治医は微笑みかける。
柔らかな表情を持ちながら、
心の中を見透かされてしまいそうな目が
少し怖くなって、窓の外へと視線をそらした。
「左近さんに伺いました。
貴女も少しお加減が優れなかったようだと……」
「あっ、大丈夫です。
私の場合は原因がわかってるんで」
そう……原因はわかってる。
この病院は大好きなお姉ちゃんがずっと
苦しんできた病院だから……。
お姉ちゃんを助けてくれなかった場所だから。
そして私とお姉ちゃんを引き裂いた場所だから。
「えっと、私。
唯香の着替え取ってきます」
口早に告げると、
逃げ出すようにその病室を後にした。
着替えを取りに戻ってくると、
唯香はまた問題行動を起こしてた。
意識を取り戻した唯香は、病室を拭け出して
院内を彷徨った挙句、階段から転落して足を骨折。
何やってんだかっ。
その後は私も、仕事と唯香のお見舞い、
そして眠りにマンションに戻る日々が続き
気が付けば、カレンダーは8月26日になろうとしていた。
明日はお姉ちゃんの8回目の命日。
その日も仕事を終えて、
夕方、唯香の入院する病院へと向かう。
すると院内の廊下で、
思いがけない人が姿を見せる。
「百花ちゃん」
「託実……さん」
お互いを捉えた途端、思わず立ち尽くした。
こんなところで
再会するなんて思わなかった。
高鳴る鼓動はどんなシチュエーションでの
再会でも嬉しくて。
だけど……言葉が思うように続いてくれない。
「百花ちゃん、どうして此処に?」
「唯香のお見舞い。
託実さん、昨日の新潟公演で残すはファイナルだけですよね。
地方公演お疲れさまでした」
「有難う」
「それより託実さんはどうして此処に?
前に言ってた、託実さんのお友達が入院してる病院って
ここなんですか?」
少しでも言葉を交わし続けたくて、
自分の記憶をフル活用して必死に会話を続けようと試みる。
「あっ……うっ、うん。
もう二年近く親友が入院してる。
百花ちゃんの絵も病室に大切に飾らせて貰ってるよ」
「お友達、早く元気になったらいいですねー」
「有難う」
何気ない会話を続けながらも親友話題は禁句だったのか
時折、辛い表情を浮かべる託実が気になって、
少しでも早くその話題が終わるように切り返す。
「託実、ちょっといいかな?」
白衣を着た先生に呼ばれる託実。
「すぐ行くよ」
白衣の先生にそうやって告げると、
託実の視線はもう一度私を捉える。
「ごめん。
また逢えるかな?
次は少し、お茶できたらいいね。
唯ちゃんに宜しく」
早々に告げると託実は私の前から姿を消した。
託実が移動して一人に戻った病院内。
ここ数週間ずっとお見舞いの度に感じる
ストレスと向き合いながら、親友の病室へと向かう。
託実のことにしても、私の過去にしても、
悩み事を今の唯香には背負わせられない。
自分自身とうまく対峙することも出来ないまま、
時間だけは確実に過ぎていった。
願うのは親友が少しでも早く、
また元気に笑ってくれるようになってほしいから。
その気持ちには偽りがないから。
それだけを願って毎日お見舞いに顔を出す。
「唯香……」
ノックをして顔を出したら、
主治医の先生が顔を覗かせてるところだった。
「あっ、ごめん。
私、もうちょっと外に居るよ」
慌てて病室を出ようとしたら、
柔らかな声がそれを遮る。
「大丈夫ですよ。
では、後はお友達と楽しんでくださいね」
そう言うと、白衣の先生は静かに病室を出て行く。
二人だけになった病室。
階段から転落した後、脳震盪を起こしたらしく、
唯香の記憶の一部が欠落した。
今の唯香の中には、あんなに大好きだった
Ansyalの記憶は存在しない。
Ansyalの記憶も、あんなに大好きなTAKAの記憶も
抜け落ちてしまった唯香と会話を交わす。
だけどそれは唯香なんだけど、
私の良く知ってる唯香ではなくて……。
唯香の口から紡ぎだされるのは、
一度だけ私があったことのある、
LIVEの日に唯香をからかっていた教え子の名前。
その子の名前を何度も何度も呟き続ける。
*
唯香、アンタに何があったの?
*
何度も何度も問いただしたくなる心を
必死に抑えて唯香のペースにあわせて会話を続ける。
唯香は少し疲れてしまったのか、
ベッドに体を預けてウトウト。
「飲み物買ってくるよ」
そう紡いで病室を後にすると、
院内のコンビニで買い物を終えて病室に戻る。
病室の前、あの日、唯香を虐めてた教え子君。
「すいません」
病室のドアに手をかけようとした私に
声がかけられる。
「はい。
あら、唯香に逢いに来てくれたの?」
少し疲労がたまり気味の私は、
何も考えずに普通に問い直す。
「唯ちゃんの教え子で、宮向井といいます」
「あぁ、君。
LIVEハウスで唯香、苛めてた子だね」
「唯香、まだ寝てるんだ。
って言うか、 唯香にも心配して来てくれるヤツ
ちゃんといるんだ」
「唯ちゃんの友達が来てるなら今日は……俺、ここで。
唯ちゃん、悲しませたくないんでコンクールの練習に戻ります」
病室の前、その教え子は丁寧に私にお辞儀をして
病室から立ち去っていく。
ちゃんと居るんじゃん。
私以外にも唯香を心配してるヤツがさ。
早く、元気になりなよ。
一緒にAnsyalのLIVEに行けるようにさ。
そしたら私も託実との事、唯香に聞いて貰えるんだから。
病室のドアを開ける。
冷蔵庫に、飲み物を片付けると
仮眠を終えた唯香がゆっくりと体を起こす。
「唯香、明日は私寄れないから。
お姉ちゃんの命日だからさ。
何かあったら、携帯連絡いれといて。
連絡入ってたら、終わった後に顔出すから」
「大丈夫だよ。
私も大分、落ち着いてるから。
百花もごめんねー。
ずっと迷惑かけっぱなしで。
ちゃんと退院したら埋め合わせするから」
翌日、朝から仕事を休ませてもらって実家へと帰宅。
久しぶりに対面する両親。
そして姉の位牌を納めた仏壇。
喪服姿で、姉が眠る墓地へと向かい、
まずはお寺でお参り。
30分ほどのお参りの後、
今度はお墓へと移動して参拝する。
グランドピアノをイメージした墓石をゆっくりと
柔らかい布でふき上げて、
周囲のゴミを拾い、草抜きをする。
8月下旬の残暑が照り付ける中、
時間をかけてお墓の掃除をすると、
お祖父ちゃん、両親、私の順番でお墓にお参りする。
*
お姉ちゃん、久しぶり。
お姉ちゃんの年を越えてもう4年も過ぎちゃった。
私の中のお姉ちゃんは、ずっと19歳のまんまなんて
不思議だよね。
私ね……今、好きな人が出来そうなんだよ。
会うだけでドキドキして、話せなくなるんだけど
私にとっては、夢のような存在の人だけど……
でも偶然が、本当は偶然じゃなくて必然ってこともあるよね。
だから見守ってて。
お姉ちゃんの分まで、私は幸せを掴むから。
*
そんな報告をしながら、
私はお姉ちゃんのお墓参りを終えた。
水桶と手酌を手に、再び境内に戻ると
両親やお祖父ちゃんとは遅れて、駐車場へと向かう。
愛車に向かう途中、再度……再会したのは託実。
「こんにちは、百花ちゃん」
「あっ、こんにちは。託実さん」
「奇遇だね」
「ホント、そうですね」
「この場所に誰かのお墓があるの?」
ふと託実さんが、そう問いかけてくる。
浮かびあがるのは、
大好きなお姉ちゃんの顔。
「あっ、この場所には大切な人が眠ってるんです。
託実さんは?」
そうやって答えて、同じ質問を託実さんにぶつけると
託実さんも静か言葉を紡いだ。
「ここには大切な人が眠ってる」
そう告げる託実さんの表情が何処となく寂しげで、
それ以上言葉を続けることなんて出来ないまま
私たちは墓地で別れた。
病院と墓地。
予定外の場所で再会した託実。
私の心の中には『ここには大切な人が眠ってる』っと
呟いた託実の言葉が深く心に突き刺さった。
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