第7話 外伝① 「早苗の視点」

──霧の中の声


霧はいつも私を呼んでいた。

幼い頃から、その声だけはどこか違って聞こえた。


“来てほしい”のか、

“忘れてほしい”のか、

あるいは“戻ってきてほしい”のか。


私はその呼び声に従った。

霧の中を歩き、記憶の狭間を漂い、声を送る者となった。


私が見たのは、形のない人々の影。

記憶の欠片を手繰り寄せ、凍りついた感情を溶かし、

水の三態の狭間で揺れ動く魂たちだった。


私は何度も叫んだ。

「ここにいるよ」と。


だが彼らは私の声に答えず、ただ水の流れに身を任せて消えていった。


それでも、私はここにいる。

霧と水の狭間で、声を失わないために。


――終わり。

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