きらめく五芒星,大陰陽師と神明!

安里月読

第一話

 ……どうして……こんなことに……


漆黒の路地で、俺は腹を押さえながらよろめき歩いた。

母の刃で刻まれた傷口はまだ血を流し、足跡のすべてを赤く染めていく。


十四歳の俺は、本来ならただの平凡な少年であるはずだった。

けれど今、この瞬間、俺は何かに深淵へと引きずり込まれている気がした。


「……どうして……あんなことに……」

呟く声は震え、涙で視界は滲んでいく。


その時だった——


「ふふふ……濃い憎しみだね。けれど、君が憎んでいるのは彼女か……それとも自分自身か?」


耳元で、聞いたことのない女の声が響いた。

澄んでいるのに、背筋が凍るほど冷たい。


俺は立ち止まったが、振り返らなかった。

直感でわかった。この声は——俺の心の中から聞こえているのだと。


「……お前は誰だ?」

「私? ふふ、私は——神だよ。」


次の瞬間、目の前の闇が裂け、巨大な扉がゆっくりと開いた。

重々しい軋む音とともに、不気味な「シューッ」という息遣いのような音が隙間から溢れ出す。


そして、彼女は現れた。


長い髪が腰まで垂れ、冷たい蒼光を放つ。

瞳は深淵のように黒く、すべてを呑み込もうとしていた。

和服の裾は宙に漂い、墨のように虚空へと広がっていく。

顔の半分は影に隠れていたが、浮かべた笑みは美しくも、あまりに危うい。


「……これは……何なんだ?」俺は尻餅をつき、声を震わせた。

「これは——君の本性だよ。」


奇妙なことに、恐怖は徐々に消えていき、代わりに口元に笑みが浮かんだ。


「はは……俺の中に、こんな闇があったのか。やっぱり、これが俺らしい。

それで……お嬢さん、あんたは何を望んでいる?」


彼女は一瞬きょとんとした後、くすりと笑った。

「面白い子ね。いいわ、力を授けてあげる。ただし——もし堕ちたら、その身体は私のものよ。」


「俺だけか?」

「ええ、君だけよ。」

「なぜ俺なんだ?」

「君の血に秘密があるの。君は唯一の末裔。その血こそ……私が必要とする糧だから。」


俺は彼女をじっと見つめ、ゆっくりと笑った。

「チャンスを逃す奴が馬鹿なんだ。いいぜ、力をくれ! 俺はこの世界を覆す!

……神よ、あんたの名前を教えろ。ここからが始まりだ。」


彼女の唇が弧を描いた。

「私の名は——月夜見。これから……よろしくね。」


「いいな! 月夜見——その力で、俺に覆世を!」


言い終えた瞬間、俺の身体は地面に崩れ、意識は暗闇へと沈んでいった。


——


「眠りなさい、少年。目覚めた時、すべてが変わっている。」


十分後。

俺と同じ年頃の少女が、死の気配漂う路地に足を踏み入れた。


倒れた俺を見下ろし、彼女は小さく呟く。


「……やっと見つけた。十六夜律。」

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