アラフィフ転生、モフモフたちと異世界開拓!~元ラガーマンの俺、美味しいご飯でみんなを救います~

はぶさん

第1話:アラフィフ転生、モフモフと出会う!~ユウさん、異世界で子熊を拾う~(前編)

「ん……? ここは……」


意識がじんわりと浮上する。全身を優しく包むのは、柔らかな土の匂いと、どこか懐かしい木の香りだ。


「俺は確か……」


昨日の晩は、久しぶりの大学時代のラグビー部の仲間との飲み会だったはずだ。熱い昔話に花が咲き、気がつけば終電を逃して……確か、公園のベンチで少し寝てしまったような……。


慌てて体を起こす。目に飛び込んできたのは、想像を絶する光景だった。


(なんだ、ここは……?)


見渡す限りの緑。空に向かってどこまでも伸びる巨木。足元にはふかふかの苔が生え、聞いたことのない美しい鳥のさえずりが響いている。まるで、絵本を開いたような、そんな幻想的な世界が広がっていた。


「ま、まさか……」


嫌な予感が脳裏をよぎる。まさか、あの手の話じゃないだろうな……?


俺の名前は**大吾 雄一郎(だいご ゆういちろう)**。みんなからは**ユウさん**と呼ばれている。年齢は45歳。若い頃はガッチリとした体格の元ラガーマン。今は中小企業の営業部長として、日々人様の頭を下げる毎日を送っている。


(異世界転生……マジかよ?)


そんな都合の良い話があるわけ……いや、でも、どう考えてもここが日本じゃないことは確かだ。見慣れたビルも、コンビニの看板もない。あるのは、ただただ広がる緑の楽園のような風景だけ。


着ている服も妙だ。昨日着ていたはずの酔っ払って少しシワになったスーツではない。素材は似ているが、より肌触りが良く、動きやすい気がする。ポケットの中を探してみるが、スマホも財布も見当たらない。


「はぁ……こりゃ、参ったな」


ため息をつきながらも、どこか落ち着いている自分がいた。ラグビーで幾度となく逆境を乗り越えてきた経験が、こんな予期せぬ状況でも冷静さを保たせてくれるのかもしれない。


「まあ、嘆いてても仕方ねぇ。まずは、この世界のルールを知るところから始めるか」


立ち上がり、周囲を慎重に見渡す。その時、脳内に直接声が響いた。


《ユウイチロウ・ダイゴ様のステータスを確認します。》


「うおっ! なんだ!?」


突然の声に、俺は飛び上がってあたりを見回すが、誰もいない。しかし、目の前に、半透明なウィンドウのようなものが浮かび上がった。


**【大吾 雄一郎(ユウイチロウ・ダイゴ)】**

* **種族:** 人間

* **年齢:** 45歳

* **職業:** 異世界漂流者(仮)

* **スキル:**

* **『鑑定眼(しょぼい)』**:物の名前や簡単な情報を小さな範囲で認識できる。

* **『土いじりの初歩』**:植物を育てる基本的な知識を持つ。

* **『手先は器用な方』**:簡単な修繕やちょっとした工作が得意。

* **『異言理解』**:この世界の言葉を何となく理解できる。

* **『ユウさん特製料理(見よう見まね)』**:幾つかの料理なら作れる。

* **『ちょっとタフ』**:普通の人より少し体力がある。


(なんだこれ! 本当にステータス画面だ! スキル名がなんか微妙だけど……『ちょっとタフ』って!)


思わず苦笑いしてしまう。元ラガーマンとしては、もうちょっと強力なスキルが欲しかったところだが、まあ、ないよりはマシか。『ユウさん特製料理(見よう見まね)』というのは、日本で適当に作っていた料理のことだろうか。それでも、この世界で生き抜くための何か武器になりそうだ。


「よし、まずは水と食料だな」


ステータス画面をそっと閉じ、周囲の探索を始める。


歩き始めてしばらくすると、木々の間からサラサラという水の音が聞こえてきた。音のする方へ進むと、小さな小川が流れているのが見えた。水はクリスタルのように透明で、とても澄んでいる気がする。


「喉が渇いてたんだ」


俺は膝をついて水を飲んだ。冷たくてとても美味しい。生き返るようだ。


小川で喉を潤していると、川向こうの茂みがガサガサと音を立てた。俺は警戒して、じっと見つめた。


茂みから姿を現したのは……小さな熊だった。


いや、正確には熊の子、だろうか。体長は50センチもないくらい。焦げ茶色のふわふわとした毛並みで、丸くて小さな耳がちょこんとついている。つぶらな瞳はクリクリとしていて、とても मासूम な顔をしている。そして何より目を引いたのは、**常に少し舌を出して、一生懸命に地面に落ちている木の実を探している**姿だった。


(うわ……なんだ、この子は……めっちゃくちゃ可愛いじゃないか!)


その愛らしさに、俺は一瞬、呆気に取られた。こちらを全く気づいていない様子で、小さな手で器用に木の実を拾い、パクパクと食べている。


(親熊の姿は見えないな……迷子になっちゃったのかな?)


一人ぼっちでこの森の中をウロウロしているなんて、危険すぎる。俺の古き良きおっさんの保護本能が、急に刺激された。


「おいおい、大丈夫か?」


思わず声をかけそうになったが、小さな体は突然の声に驚いてしまうかもしれないと思い、俺はとどまった。


(どうしたもんかな……放っておくわけにもいかないよな)


元ラガーマンの血が騒ぐ。困っている小さな生き物を見捨てるなんて、俺の流儀に反する。


そっと一歩、足を踏み出した。子熊はまだ俺に気づいていない。夢中で木の実を収集めている。


その小さな背中を見ていると、胸の奥が何とも言えない気持ちで締め付けられた。この世界に来てから、初めて何か強く守りたい、大切な存在に出会った気がした。


その時、背後から微かに、しかし明確な危険の気配を感じた。俺は即座に振り返った。


茂みの奥から、低い唸り声が聞こえてくる。それは、さっきまでの可愛らしい鳴き声とは全く違う、この森の厳しさを物語るような、獰猛な唸り声だった。


ガサガサ、と大規模に茂みが揺れる。現れたのは……とんでもない相手だった。


先ほど見た小さな熊の何倍も大きく、体長は優に2メートルはあろうかという巨大な**狼**だった。全身の毛は煤けていて、鋭い牙を剥き出し、血走った目で小さな熊を睨んでいる。喉の奥からは、さらに低い唸り声が響いていた。


小さな熊は、突然の圧力に気づいたのか、潤んだ目で怯えながらその巨大な狼を見上げている。小さな体はブルブルと震え、さっきまで美味しそうに食べていた木の実を地面に落としてしまった。


「まずい!」


俺は考えるよりも早く動いていた。あの小さな命が、この俺の目の前で終わってしまうのをただ見ているなんて、できるわけがない!


「こらぁ! そこのデビル犬野郎!」


できるだけ大きく声を張り上げた。俺の目的は、この巨大な狼の注意を小さな熊から自分に引きつけることだ。


巨大な狼は、突然現れた俺に驚いたのか、ギロリと血走った目をこちらに向けた。その目には明確な敵意が宿っていた。唸り声はさらに低く、今すぐにでも飛びかかってきそうな体勢だ。


(くそっ! 武器がねぇ!)


周囲を見渡すが、手頃な石ころ一つ落ちていない。この何の遮蔽物もない場所で、丸腰の俺に何ができるというのか?


その瞬間だった。視界の隅に、**古びた木製のバケツ**が転がっているのが見えた。誰かがこの森に置き去りにしていったのだろうか。かなり使い古されているようで、一部は腐食している。


(これしかない!)


俺は躊躇なくそのバケツを掴み、一目散にその巨大な狼の方向へと走り出した。この一歩。それは、長年身体に染み付いた、何のためらいもない行動だった。ラグビーで鍛え上げたタックルの魂だ!


「うおおおおおおおおお!!!」


腹から声を絞り出し、雄叫びを上げながら、その古びたバケツを盾のように構え、巨大な狼に向かって突進する!


「喰らえ! **ユウさん特製バケツアタック**!!」


ドンッ!


その古びたバケツが、巨大な狼のちょうど鼻先に激突した。金属製ではない木製のバケツだが、突然の攻撃に巨大な狼は明らかに怯んだ。唸り声を上げ、頭を激しく振っている。


その一瞬の隙をついて、俺は小さな熊の小さな体をそっと両腕で持ち上げた。とても軽い。さっきまであんなに怯えていたこの子は、俺の胸に顔を埋め、小さな体をブルブルと震わせている。


「大丈夫だ! もう怖くないぞ!」


俺は小さな熊をしっかりと抱きしめ、この巨大な狼からできるだけ遠くへと走り出した。巨大な狼はすぐに体勢を立て直し、血走った目で俺たちを追いかけてくる。怒りの唸り声が、背後から絶え間なく聞こえてくる。


(くそっ! この俺の足、いつからこんなに遅くなったんだ!?)


若い頃はもっと速く走れたはずなのに、今ではこの子を抱えた重荷に、足がもつれそうだ。この速度では、すぐに追いつかれてしまう!


その瞬間だった。


またしても、あの奇妙な声が脳内に響いた。


《『鑑定眼(しょぼい)』スキルが、小さな熊に対して活性化しました。『テイム』を試みますか?》


「テイム……!?」


こんなピンチになって、何を言っているんだ? とんでもなく奇妙な選択肢が現れたものだ。しかし、他に方法はない。この俺にできることは、もはや祈ることだけだ。


「やる! やるしかないだろ!」


俺は心の中で叫んだ。その瞬間、腕の中の小さな熊の体が、ほんの僅かに震えを止めたように感じた。


(頼む! この子を助けてくれ!)


背後からは、巨大な狼の荒い息遣いが生々しく聞こえてくる。もうダメかと思ったその時、目の隅に、半透明なウィンドウのようなものが再び浮かび上がった。


《小さな熊『モコ』のテイムに成功しました。》


「ま、マジかよ!?」


信じられない思いで、腕の中の小さな熊を見る。モコと名付けられたらしいこの子は、さっきまでの震えが嘘のように収まり、穏やかな顔をしている。そして、俺の顔をじっと見つめ、小さな舌でペロリと舐めた。


「くぅ~ん!」


その声は、もう怯えに満ちたものではなく、純粋な感謝の響きだった。


そして、驚くべきことに、さっきまで血走った目で追いかけてきていた巨大な狼が、突然何か奇妙な感覚に襲われたのか、たじろぎ始めた。警戒するように俺たちから距離を取り、低い声で唸りながら、ゆっくりと森の奥へと消えていった。


「……助かった……のか?」


俺は地面にへたり込み、息を切らしながら、モコと名付けられた小さな熊をしっかりと抱きしめた。温かい小さな体が、とてもリアルな感覚で、俺の胸に伝わってくる。


「くぅ~ん……」


モコは俺の顔をペロリと舐め、もう怯えに満ちたものではなく、安心したような声を上げた。


「はは……ありがとな、モコ。お前のおかげで、このおっさんは助かったぜ」


俺はモコを優しく抱きしめた。温かい毛並みが、俺の疲れた心を癒やしてくれるようだ。


(しかし、テイム……ねぇ。本当にゲームみたいな世界だな)


ユウさんは、モコを抱き上げたまま、さっき水を飲んだ小さな川のほとりへと向かった。さっきまでのドタバタの余波で、喉がカラカラだ。


「よし、まずはちょっと休憩するか。お前も疲れただろ、モコ」


川の水を再び飲み、深く息を吸った。空腹感が、今更ながら胃の奥底から湧き上がってきた。


「(何か食いもん、探さねぇとな。モコもお腹空いてるだろ)」


俺は周囲を見渡した。すると、さっきまでモコが熱心に拾っていた木の実が、太陽の光を浴びて美味しそうに輝いているのが目に入った。


「おお、あれは……見たことないけど、食えそうだな」


俺は思い出し、『鑑定眼(しょぼい)』を試してみる。


《森の恵み:ほんのりとした甘みと若干の酸味を持つ、食用可能な果実。エネルギー源となる。》


「よし、これなら大丈夫そうだ!」


俺はいくつか木の実を摘み取り、モコにも小さな手に分けてやった。モコは嬉しそうに、クリクリとした瞳を輝かせ、パクパクと木の実を食べ始めた。小さな口元に、赤い果汁が少し付いているのが、とても可愛い。


「んふ~!」


モコが満足げに鼻を鳴らすのを見て、俺は安心した。自分も一つ口にしてみる。


「ん……! ほんのり甘くて、少し酸っぱいな。とても素朴だけど、疲れた体には染み渡る味だ」


太陽はもうかなり高くなっている。この森で日が暮れる前に、少なくとも一晩休める場所を見つけなければならない。


「(このままこの森の中をウロウロしているわけにもいかないよな。ちゃんと落ち着ける場所を見つけないと)」


ユウさんの頭の中には、すでに漠然とした計画が浮かび上がっていた。


(まずは、安全な場所を確保すること。それから、食料を安定的に手に入れる方法を考えないと……そうだ、この世界でも畑は作れるんだろうか? 日本で少し家庭菜園をやっていた知識が、役に立つかもしれないな)


モコは俺の膝の上で、暖かい日差しを浴びながら、気持ち良さそうに小さな寝息を立て始めた。その温かい重みが、俺の心にじんわりと広がる。この奇妙な世界で、初めてできた大切な存在。


「よし、モコ。俺たち、これからこの異世界で、一緒に生きていくぞ!」


中年になって突然異世界に転生したおっさんと、森で出会った小さな熊。二人の奇妙だが、どこか安心できる生活が、今、始まったばかりだ。

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