夏の日
獅子2の16乗
第1話 夕立
『
『これは、本来の意味で判断するのがいいの――』
夏至祭りの日に私から告白して付き合い始めて半月、いまだに“さん呼び”されてる。
私としては呼び捨てがいいんだけど、踏ん切りがつかないのかな……
「
『うん、虚数はマイナス1の平方根だから完全に抽象的な存在だけど、いろいろ不思議な性質があるんだ。例えば実数と虚数からなる複素数の指数関数をとるとサインウエーブが現れるって“素数の音楽”っていう本で読んだことが――』
だから、私も“柳一君”と呼ぶしかないわけで……あれ、雷鳴?
「柳一君、大変。夕立だよ」
『え……本当だ。桐花さん傘は?』
「持ってない。柳一君は」
相合傘のチャンス?
『俺も持ってない……ごめん、俺が傘持ってて、貸してあげるのが本当だと思うけど』
……私の柳一は世界一ね。
『止むのかな』
「んーと……あと2時間ぐらいは続くみたい」
『そっかー。困ったな』
「ウチはここから10分ぐらいでしょ」
『確かそうだったね』
「ウチまで走って行って、お風呂貸してあげるよ」
『え! あの、ご両親には諒解してもらってるんですか?』
「両親は結婚記念日の旅行に行ってて、帰ってくるのは明日の土曜日ね」
『ご両親が留守の所に上がり込むのは』
「大丈夫、この前挨拶に来たでしょ、うちの両親は柳一君のことすごく気に入ったんだって。自信持ちなよ」
「そうなんだ。じゃあお言葉に甘えてもいいかな」
『是非いいよ』
…………
『うひゃー、やっと着いた。なんで俺たちが外に出たら雨が激しくなるんだよ。
「ちょっと痛かったね」
『あの、水が垂れてるんだけどこれで家に入っても大丈夫?』
「気にしないで、でも、お風呂場に直行して。リビング右奥よ」
『うん、ありがとう』
「それと、着てるものはドラム洗濯機に入れて。1時間半ほどで乾燥までできるから。風呂上りは父のジャージを用意しておくからそれを着て」
『何から何までありがとう』
私はとりあえず自分の部屋で着替えて、洗濯機をスタート、拭き掃除、あと、
「りゅ……!」
型ガラス越しに柳一の後ろ姿が見える。裸の。
たくましい腕、がっしりした肩、締まった腰、太もも……確か100m10秒台って言ってたよね。
目をそらせない……もっと柳一君のこと知りたい。
『
あ……そうだ、ちゃんと伝えなきゃ。
「バ、バスタオルなんだけど、収納の中の段に入ってる」
『ありがとう……本当に洗濯してもらっていいの? 当然だけど下着とかあるけど』
「大丈夫よ」
声を聞いたらドキドキしてきた。
「あ、雨に濡れると意外と体が冷えるからちゃんと温まってね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご訪問ありがとうございます。
「型ガラス」とは、浴室やその手前の脱衣場の入り口の開き戸に使われるガラスの表面(片面)がデコボコしていて、もう片面がツルツルしたガラスで、視界をさえぎる必要があるところに使用されますが、体形ぐらいならわかることがあります。
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