第7話 管理された日々

それからの日々は、静かに、じわじわと壊れていくものだった。


怜司は決して怒鳴らない。殴らない。ただ、淡々とルールを設けていく。


・話しかけるときは名前を呼ぶこと


・食事は完食すること


・外に出たいと言ってはいけない


「大丈夫。君がちゃんと従ってくれれば……僕は優しくできるから」

そう言って、彼はいつも微笑んだ。


違反すれば、食事は抜きになる。光は消える。


命令に従えば、報酬もあった。


「いい子にしてるご褒美だ」と、壁に設置された時計。時間の概念さえ失いかけていた真琴にとって、それは、生きる希望として時を刻んでくれた。


スープの温度や香りも日によって違う。時にはデザートが、つくことさえあった。


しかし、それは同時に怜司に対する恐怖心を増強させた。


ー怜司に反抗できない。嫌われると、全てが取り上げられるー


失うことへの恐怖が真琴を徐々に締め上げていく。


時計の設置後、怜司はスケジュール帳を片手に真琴の日々を管理するようになった。


ー6:30 起床ー

・監視カメラに顔を向け、「おはようございま 

 す」と挨拶すること

・洗面台で顔を洗い、用意された服装に着替え

 る


ー7:00 朝食ー

・テーブルに置かれた食事を完食すること

・食事のマナーを守ること


ー8:00〜9:00 運動ー

・室内を決められた速度で歩行する

・怠ける行為は、制裁に値する


ー9:00〜11:30 課題ー

・怜司の指定する本の朗読、書写、計算 


ー12:00 昼食ー

・音を立てずに食べること、姿勢、所作などに  細かい制限あり


ー13:00〜15:00 自由時間(監視下)ー

・読書

・トランプ、ジグソーパズル、塗り絵


ー15:30 シャワーー

・時間厳守、10分以内


ー16:00〜17:30 日誌記録ー

・今日の体調・行動内容・思考内容を記録

・書いた内容は教育時間にチェック

 否定的な語句(例「逃げたい」や「つらい」な ど)は記載禁止。発見時は削除、指導の上、再 提出


ー18:00 夕食ー

・静かに食事。日によっては怜司が同席

・食べこぼし厳禁。違反時はそれ相応の罰が下る


ー19:30 教育時間または怜司との対話ー

・怜司による教育、指導

・正しい姿勢で敬意を持って、受けること


ー22:00 就寝ー

・点灯自動消灯

・足枷は自分で再装着(真琴の起床前に怜司が外

 しに来る)、ベッドの端に繋がれたまま眠る

・怜司、または監視カメラに向き「おやすみなさ

 い」と挨拶


全てが管理された日々。

何より恐ろしいのは、「彼の優しさが消えること」だった。


あの完璧な笑顔が、消えた時の冷たい瞳――

人を射るようなその目は、まるで、人間の心を捨て去った悪魔のようだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る