第3話 支配という名の愛

その日の夜。怜司は彼女に想いを巡らせていた。


彼女の芯のある強さ。優しさ。真っ直ぐな眼差し。


君が僕を見つけてくれた。その綺麗な瞳で心を見つめてくれた。


誰も知らない「本当の僕」


だからこそ、僕も君の心を見つけたい。奪いたい。愛されたい。


僕を否定した君の全てを⋯壊したい⋯。


真琴に対する支配欲⋯


それを、愛と呼ぶにはあまりにも歪だった。


ー「復讐にも似た愛」が怜司の心を支配した。




その日を境にレイジの彼女を見つめる瞳は変わった。


その些細な変化に誰も気づかない。


真琴と目が合うとレイジは、優しく微笑んだ。


整然と並べられた本の棚。その高い位置に置かれた資料を、真琴が取るのに苦戦していると、上からスッと手が伸びた。


「はい、これでしょ。」


温かい光を纏った彼は、そう言いながら真琴の手に資料を渡す。


重い荷物を運ぶ時も、レイジはすぐに駆けつけてくれた。


「僕が運ぶよ。」


真琴の抱える段ボールを軽々と持ち上げ、レイジが所定の場所まで運んでくれた。


「ありがとうございます。」


礼を言う真琴に「気にしないで」というように、顔の前で手をひらひらと振り、レイジは笑顔を残して去って行った。


忙しなく走り回るスタッフさえ、そんな彼を見ると、一瞬、足を止め、恍惚な表情でレイジを見つめる。


「⋯あのルックスで、あの優しさは神でしょ。」


隣を歩くADがうっとりとした様子で真琴に話しかけた。


素直に嬉しかった。見返りを求めない気遣い、思いやり。何もかも完璧な俳優。


ただ、あの日のことが気になった。


誰をも魅了する、その笑顔が真琴に向けられる度、心の奥で何かが揺れる。


美しい瞳の、その深部に感じる冷たい光。目を凝らさないと見逃すような、些細な違和感。


そして、その胸のざわめきが、現実として現れるのに、そう時間はかからなかった。


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