勇者の帰還

(勇者視点)


 魔王の本性は竜だった。東洋の龍ではなくて、身体は全体的にずんぐりしている。鱗は朱色で捻れた角が二対四本あった。目は金色、瞳孔が縦に長い。爪も牙も大きくて鋭い。


 身体の大きさはある程度自由に変えられるそうで、かなり大きくなってもらっていた。勇者である私と保護者のアルと聖女のスミちゃんを乗せてもらうためだ。


 私はアルに抱えられるくらい今更だけど、スミちゃんはアルと密着することには抵抗があるだろう。


 本当は鞍があれば乗りやすい。とはいえ、この大きさの鞍があるわけないし、魔王様の背中に鞍を乗せるなんて畏れ多いことはできないか。


〈安心して。落としたりしないわ〉

 魔王であるシホさんは《念話》でそう言って、背中の私たちを結界で覆った。


 シホさんの傍らには金色の翼がある巨大な白い犬。これはシホさんの側近、ケインさんだ。


〈ケイン。しっかりついて来なさい〉

〈少し速度を落としていただきたいのですがね〉

 ケインさんの《念話》には諦めたような気配があった。

〈無茶な飛び方はしないわよ〉

 シホさんは少し不服そうだった。


 飛ぶのは高くて怖い……かと思ったら、そもそも魔王の身体が大きくて真下は見えない。遠くなら見えるけど。そのせいか意外と恐怖は感じなかった。


 シホさんは防風防寒もしてくれているようだ。ありがたい。人間はか弱いからね。


 そうして運ばれる先がどこかといえば、人間の国だ。私が召喚されたあの城に、こちらから突撃してやろうというわけ。


 ナントカ王国の王都で街の名前がナントカだと、以前アルが教えてくれたけど、情報は右から左へ流れ落ちた。今後私があの国の名前を覚えることがあるかどうか。

 

 魔王とその側近の姿を見て、街も城も恐慌状態に陥った。めちゃくちゃに鳴らされる鐘、逃げ惑う人の気配と喧騒。ちょっと申し訳なくなってくる。


 シホさんは植栽を薙ぎ倒し花壇を踏みつけ、城の庭園に降り立った。どことなく疲れた様子のケインさんもその隣に。


 城の騎士たちが庭園を取り囲む。魔法がいくつも飛んで来るけど、新しい結界を張るまでもなく無効化されていく。


 シホさんがひと声吼えた。思わず耳を塞ぐ。すると、ぴたりと攻撃が止んだ。


 騎士たちは硬直し、あるいは、立っていられずに膝をつき、魔王の威圧に耐えていた。いや、耐えられてない奴もいるな。何人かは気絶しているようだ。


 アルは無表情だった。感情を見せたくないのだろう。あの騎士たちの一部は彼の元同僚だからなぁ。


 攻撃が止んでいる間に、私たちはシホさんの背中から降りた。

〈私は魔族の王〉

 シホさんの《念話》がかなり広範囲に伝えられているのがわかった。


〈人間の王と話をしにきた〉

 ケインさんが人の姿になって、私たちの側に立った。やはり人間にしか見えない。

〈私が望むのは対話の場。こちらから攻撃する意思はない〉


「我が君、そのように威圧していては人間たちが動けませんよ」

 ケインさんの言葉に、対象を私たちに絞った《念話》が返ってくる。


〈だってさ。ここの連中がヒナちゃんを雑に扱ったのかと思うと腹立たしいのよ〉

「少し抑えませんと。人間は脆弱なのですから」


「……人が何故、魔王と」

 呟きが聞こえた。ひとり、動ける騎士がいたらしい。獣じみた咆哮と共に剣を振りかぶって駆け寄ってきたその人を、スミちゃんの結界が止めた。


 アルが「団長」と呟いた。なるほど、ここの騎士団長か。強くて偉い人なんだね?

 私はその騎士に近付いた。悔しげにこちらを睨んでいる。


「魔王は勇者に恭順を誓ってくれたの。攻撃の意思がないのは本当。だから、この城の偉い人たちと話をさせて」


 聖女の結界は騎士を閉じ込めていた。声は聞こえているようなので、続けて言う。

「あなたたちはきっと、私の顔なんて覚えていないだろうけど」


 私が何者か気付いたのだろう。騎士団長の表情は驚愕に変わった。


 シホさんが威圧を緩めて人の姿になった。途端に攻撃してきた数人の騎士は、スミちゃんとケインさんが結界に捕らえた。


 まったく。こちらは話し合いがしたいと言っているのに。


「あなたが団長さんなんですよね?」

 スミちゃんが私の隣に立って、騎士団長に話しかけてた。

「攻撃をやめるように指示してくれませんか」

「……君は、人間か?」

「人間以外のものになったつもりはありません」


「何故、魔王と共にいる?」

「この世界の平和を願っているからです。魔王は人間の滅亡なんて望んでいない」

 スミちゃんはそう断言して騎士団長を見つめた。


「あなたを解放します。攻撃ではなく、対話の準備をしてください」






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