第7話

 あれから倒れながらも花火を見ていた俺は携帯で呼び出されると満身創痍で下山した。

 まだ遊びたいと騒ぐ妹を捕獲し、帰りのバスに押し込むと痛みに耐えながら帰宅を果たす。

 妹を風呂に入れ、その後に俺も入っていると母さんが帰ってきた。風呂から上がると妹が今日の話を母さんに聞かせている。

 麦茶を取ろうと冷蔵庫へ行くと、母さんは俺を見て驚いていた。

「あんたなにそれ? どうしたの?」

 驚くのも無理がない。俺の腹にはあの子にやられた膝の跡がくっきりと残っている。

「…………べつに。躓いたところに石があっただけだよ」

「痛くないの?」

「痛い。だからもう寝るよ。今日は疲れた。おやすみ」

 俺はTシャツを着ながら答えた。心配する母さんを横目に麦茶入りのコップを持って部屋から出て行く。後ろで妹が「あのね。花火いっぱいだったよ」と報告していた。

 部屋に入るとすぐさまベッドに寝転がった。体は疲れていたけどまだ寝られそうにない。

 枕元に置いていたあの子が落とした交換券を手に取り、書かれていた名前を読み上げる。

「……灰野……羽美」

 さっき調べたけど羽に美しいと書いてうみと読むらしい。

 こんな名前をしてるから飛ぼうとしたんだろうか?

 そんなわけないな。でもなんであんなところにいたんだ? 

 俺はまだ痛みが残る腹をさする。それにしても軽かった。いや、人間だから重いんだが、それでも年齢と見合ってない軽さだった。

 腕も足も不安になるほど細く、なのに目だけは恐いほど力強くて。

 そのアンバランスさが見る者を不安にさせる。灰野はそんな子だった。

 眠くなって目を閉じる。すると上から飛び降りてくる灰野が見えた。俺は思わず体を硬くするが、目を開けると先ほどの残像だったことを理解した。

 花火に照らされた灰野の顔が脳裏にこびり付いて離れない。

 こんなこと初めてだった。

 灰野があんなことした理由なんて分かるわけもないのについ考えてしまう。

 なにかの遊びで? まさか本当に空を飛ぼうとした?

 それとも花火を少しでも近くで見たかったとか?

 現実的な案からメルヘンなものまでが頭の中を駆け巡る。

 窓の外が白んできた頃、分かったことは二つだけだった。

 一つはこのままうだうだ妄想しても決して答えには辿り着けないということ。

 もう一つは答えを知る為には灰野を見つけ出さないといけないということだ。

 いや、御託はいい。俺はもう一度灰野に会いたかった。

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