第3話
二次会はカラオケだという。
僕は「明日も早いから」と嘘をついて、その群衆から離れる。
わかっていた気がした。
店先、無言で僕と彼女は立っていた。
やがて、彼女はあの頃より短くした髪の毛を撫でて、こちらを覗き込んだ。
「時間、ある?」
そうだ。彼女は小柄な割によくとおる、少し甘えるような、声だった。
夜の並木道を歩く。
枝垂れ桜がきれいだった遊歩道は、整備されて、ただの土手になっている。
「根腐れして危ないから、切っちゃったの」
「そっか……」
「歩いたよね、よく」
「うん」
彼女とはそんなに深い仲だったわけではない。ある時まではあの群衆の中の一人だった。
ここを歩いたのだって、二人きりで歩いたことは、ほとんどないと思う。
それでも、思いでの宿る場所が時の魔力で変わってしまうのは、悲しい。
「ヤーくん」
懐かしい呼び名だ。
「星、まだ好き?」
「うん」
「まだ、見てるの?」
「見てるよ」
「そっか。変わってなくて、安心した」
彼女に言われると、すべてを肯定された気になる。さっきは劣等感を感じてしまったのに。
「美織こそ、忙しい?」
「うん。仕事、大変だからね」
「美織は、頑張りすぎるから」
部活のときも、彼女はひたすら献身的だった。自分も選手なのに、いつも誰かのサポートに駆け回っていた。だから、彼女は貴重だった。悪く言えば、便利屋だった。
僕はそんな彼女に違和感を持ちながら、でもよく考えれば僕も似たことをしていたのだ。
「ヤーくん。少し座ろうよ」
彼女はベンチを指さした。
再会してから胸が鳴っている。彼女は、覚えているのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます